・・・その痛さより、身は砕くるかと思えども、なおも命はあらしゃった。されども慈悲もある人の、生きたと見てはとても食べはせまいとて、息を殺し眼をつぶっていられたじゃ。そしてとうとう願かなってその親子をば養われたじゃ。その功徳より、疾翔大力様は、つい・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・でそんなら門歯は何のため、門歯は食物を噛み取る為臼歯は何のため植物を擦り砕くため、犬歯はそんなら何のためこれは肉を裂くためです。これでお判りでしょう。臼歯は草食動物にあり犬歯は肉食類にある。人類に混食が一番適当なことはこれで見てもわかるので・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・米屋の商売も、全くこれ迄とはちがったものになりかかっている最中のことだから、出る前の話もいろいろと心を砕くわけだろう。 そう思って店で立話している人々の表情も今日の世相の中に汲みとりながら、ふっと視線をうつしたら、その隣りは炭屋であった・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・主我心をもって主我心を砕く事もできない。それをなし得るのはただ愛のみである。 怒りは怒りをあおり、主我心は主我心を高める。もし他人の怒りと主我心を呪うならば、まず自己の内の怒りと主我心とを征服せよ。まことの愛はその時初めて湧き出るだろう・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫