・・・波浪「ケプ」破れる。また「ケ」場所。奴田 「ヌ」頂の平たき山「タプ」円頂丘。日下 「クサハ」河を渡船で渡る。勿論土佐の日下は山地である、人名等より来たであろうが、もとは渡しかもしれぬ、崇神紀に「クスハノワタシ」というのがある。十・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・ そのような律動のある相が人間肉体の生理的危機であって不安定な平衡が些細な機縁のために破れるやいなや、加速的に壊滅の深淵に失墜するという機会に富んでいるのではあるまいか。 このような六ヶしい問題は私には到底分りそうもない。あるいは専・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ 突然何者か表の雨戸を破れるほど叩く。そら来たと心臓が飛び上って肋の四枚目を蹴る。何か云うようだが叩く音と共に耳を襲うので、よく聞き取れぬ。「婆さん、何か来たぜ」と云う声の下から「旦那様、何か参りました」と答える。余と婆さんは同時に表口・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・一足は穿く、二足は革鞄につまるだろう、しかし余る一足は手にさげる訳には行かんな、裸で馬車の中へ投り込むか、しかし引越す前には一足はたしかに破れるだろう。靴はどうでもいいが大事の書物がずいぶん厄介だ。これは大変な荷物だなと思って板の間に並べて・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 空想は時計の音と共に破れる。石像のごとく立っていた番兵は銃を肩にしてコトリコトリと敷石の上を歩いている。あるきながら一件と手を組んで散歩する時を夢みている。 血塔の下を抜けて向へ出ると奇麗な広場がある。その真中が少し高い。その高い・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・陳氏は笑いころげ哄笑歓呼拍手は祭場も破れるばかりでした。けれども私はあんまりこのあっけなさにぼんやりしてしまいました。あんまりぼんやりしましたので愉快なビジテリアン大祭の幻想はもうこわれました。どうかあとの所はみなさんで活動写真のおしまいの・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・の作者は、この作品のかかれた時代、結婚後五年で、その結婚生活の破れる最後の段階に迫っていた。結婚生活に入って五年の間、一つもまとまった作品のないことを苦痛に感じ、不安に感じはじめていた作者は、一九二三年の夏には本気ですこし長いものをかきたか・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・ しまいまで読み終るといきなり破れる様な声で、 馬鹿! 馬鹿野郎、 人が病気で居ればいい玩具や思うて勝手な事云うてさいなみ居る。 出したけりゃ早う、夫婦共に出すがええ、 人でなし。と云った。 お節は涙・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・仲店の角をつっきるとき私は出会頭、大きな赤い水瓜みたいなものをハンドルに吊下げて動き出した自転車とぶつかりそうになった。破れる、と思わず瞬間ぎょっとしあわてて避けたはずみに見ると、それは水瓜ではなく、子供の遊戯に使う大きな赤革のボールであっ・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・野心の結合では、一方の野心が充足されたときまたは野心の傷けられたとき、たちまち友情は破れるのである。 今日の若い心は、自分たちの間にそのような友情が見出される可能を、どの程度信じているだろうか。ここに青年たち自身の今日の課題があるの・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
出典:青空文庫