・・・けれども滝田君自身も亦恐らくは徳田秋声氏の如き、或は田山花袋氏の如き、僕等の先輩に負う所の少しもない訳ではなかったであろう。 僕は滝田君の訃を聞いた夜、室生君と一しょに悔みに行った。滝田君は所謂観魚亭に北を枕に横わっていた。僕はその顔を・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎氏」
・・・このような文学こそ、新しい近代小説への道に努力せんとしている僕らのジェネレーションを刺戟するもので、よしんば僕らがもっている日本的な文学教養は志賀さんや秋声の文学の方をサルトルよりも気品高しとするにせよ、僕はやはりサルトルをみなさんにすすめ・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・ 僕は読売新聞に連載をはじめてから秋声の「縮図」を読んだ。「縮図」は都新聞にのった新聞小説だが、このようなケレンのない新聞小説を読むと、僕は自分の新聞小説が情けなくなって来る。「縮図」は「あらくれ」ほどの迫力はないが、吉田栄三の芸を・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・最近よんだ作品の中で、最も誇張でない秋声の「縮図」にさえ、私はある種の誇張を感じている。 私は目下、孤独であり、放浪的である。しかし、これも私の本意ではなかった。私は孤独と放浪を書きつづけているうちに、ついに私自身、孤独と放浪の中へ追い・・・ 織田作之助 「私の文学」
・・・二日置いて九日の日記にも「風強く秋声野にみつ、浮雲変幻たり」とある。ちょうどこのころはこんな天気が続いて大空と野との景色が間断なく変化して日の光は夏らしく雲の色風の音は秋らしくきわめて趣味深く自分は感じた。 まずこれを今の武蔵野の秋の発・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・ このほか、徳田秋声、広津柳浪、小栗風葉、三島霜川、泉鏡花、川上眉山、江見水蔭、小杉天外、饗庭篁村、松居松葉、須藤南翠、村井弦斎、戸川残花、遅塚麗水、福地桜痴等は日露戦争、又は、日清戦争に際して、いわゆる「際物的」に戦争小説が流行したと・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ 秋声・藤村 藤村と秋声とが相ついで長逝した。二人の作家の業績は、明治、大正、昭和に亙って消えない意義をもっている。そのことをつよく感じる人々は、同時に、この二人の作家が全く対蹠的に一生を送ったことについても、・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・と題する感想を終ろうとしたら、もうベッドに入ってからつる公がやって来て、詩の話や秋声の話やらをしてすっかり予定が変更。けさは十時頃おき、書きあげた原稿をナウカへ届けて、それからスエ子が三四日前から入院したケイオーへまわろうとしましたが、本屋・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・今日私たちの目の前にある近代古典と云うべき作品の多くはこれらの時期に書かれたものであるし、古典的な権威として今日或る意味で価値ある文学上の存在をつづけている作家たち、例えば島崎藤村、徳田秋声、谷崎潤一郎、永井荷風、志賀直哉、武者小路実篤等は・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・例えば、島崎藤村、徳田秋声等は、日本の資本主義が勃興の途についたロマンチシズムの時代から、自然主義の時代、白樺等によって唱えられた人道主義の時代、更に社会の推進につれて生じた新たな階級の文学運動の開始等、明治から昭和に至る日本文化の縦走をそ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
出典:青空文庫