・・・と云って、五十恰好の女が何時でも決まった時間に、市役所とか、税務署とか、裁判所とか、銀行とか、そんな建物だけを廻って歩いて、「わが夫様は米穀何百俵を詐欺横領しましたという――」きまった始まりで、御詠歌のように云って歩く「バカ」のいたのを。と・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・郵便局の雇や、税務署の受附などに、時おり権突を食わせられる度に、ますます厭になった。それから軍人も嫌であった。その頃始めて国の聨隊が出来て、兵隊や将校の姿が物珍しく、剣や勲章の目につくうちは好かったが、だんだん厭な事が子供の目に見えて来た。・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・そこでわたくしどもも賛成して試験的にごくわずか造って見たのですが、それを税務署へ届け出なかったのです。ところがそれをだしにして、わたくしのある部下のものがわたくしを脅迫しました。あの晩はじつに六ヵしい場合でした。あすこに来ていたのはみんな株・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 税務署では、弁護士や医師と文筆家を並べて一つカテゴリーに入れている。自分のもとでで儲ける者としこの区分に入れている。作家はおとなしくその類別に従って来た。けれども、少し考えると妙だと思える。 作家は、大部分が出版企業に結びつけられ・・・ 宮本百合子 「作家への新風」
・・・それはシャウプ勧告の徴税法が過重であるのではなくて、税務署の役人の税をとりたてる方法がわるかったのだろうと言われたそうです。しかし、そう言われたからといって、死んだ人は生きかえりません。そしてやはり農村は税で破滅させられかかっています。・・・ 宮本百合子 「願いは一つにまとめて」
・・・著作家組合が出来たとき、文筆家は、自分のところで、自分の道具で、自分の時間で執筆するのだから、外の勤労と条件がちがうと考えた人があった。税務署も、文筆家は、ほかの勤労とちがうとして、開業医、弁護士なみの所得税徴収の基準をたてている。私たちは・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
出典:青空文庫