・・・ その自動車は村の街道を通る同族のなかでも一種目だった特徴で自分を語っていた。暗い幌のなかの乗客の眼がみな一様に前方を見詰めている事や、泥除け、それからステップの上へまで溢れた荷物を麻繩が車体へ縛りつけている恰好や――そんな一種の物もの・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・ただこの場合において一、二の注意を述べるなら、職能に関する読書はその部門の全般にわたる鳥瞰が欠くべからざるものであるが、そのあいだにもおのずと自分の特に関心し、選ぶ種目への集注的傾向が必要である。何事かを好み、傾くということがそのことへの愛・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・それは否定されないけれども、それだからといって、異性との間に友情はないというのは、明らかに一つの誤りであり、そのこと自身、今日もなお私たち女や男が、人間としてどんなに狭く貧相な感情の種目で、しかもぼんやりしたり混乱したりしているその内容のま・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・音楽が芸術であるからには、美の一種目として諷刺を避けてはいないのだろうと思う。私たちはよく、諧謔的にと添えがきされる場合を知っているが、諧謔は感情の性質として諷刺と同じではない。妥協的であっても諧謔的では、あり得るのだから。偉大な作曲家たち・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・新たに増税されるものの種目に、写真機及その附属品、原料というのがある。フィルム、原像液、引延機、みんな其々に税がかかるのであろう。写真機の大衆化は、その生産過程の特殊性から或る方面の支持によったのであるそうだが、ずうっとひろげておいて今度は・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・このことは、現実生活の中では、文部省の教科書取締りにあらわれた、文学の読みかたの、特殊な標準とも関連しているから、各種目の長篇小説の未曾有の氾濫状態の一面に、おのずと、文学とは何であろうかという、文学にとって最も核心にふれた反省が、一般の人・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ 現在のところでは上野の帝国図書館にしろ蔵書の量と種目とでは決して満足と云えないし、日比谷の市立図書館を、東亜の大首都東京市の代表図書館であると云わなければならないことには、些か忸怩たるものがありはしないだろうか。図書館へは学生のうちだ・・・ 宮本百合子 「実際に役立つ国民の書棚として図書館の改良」
・・・ それがどういう事情からにせよ現在のように女性が出版の可能を割合もっているとき、女性はあらゆる種目と範囲に亙ってたくさんの本を出して行くべきだろう。質を縦にもふかめて、専門的な、時間の経過に耐える労作を、もっともっと生み出して行っていい・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・申告すべき退蔵物資の十六種目一覧表も載った。ここに又一つ奇妙なことがある。主要食糧は、なるほど直接人命にかかわる性質をもっている。だが、農民は一年の労苦を傾けて、それを生産した者である。供出したがらないのは、したがらない理由がある。それにも・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
出典:青空文庫