・・・それが貴方、着物も顔も手足も、稲光を浴びたように、蒼然で判然と見えました。」「可訝しいね。」「当然なら、あれとか、きゃッとか声を立てますのでございますが、どう致しましたのでございますか、別に怖いとも思いませんと、こう遣って。」 ・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・時としては天の真上で稲光がしてやはり音の聞えぬ事がある、これはブラシ放電と名づける現象で、この時の光の色を分析してみると普通の電光とちがう事が分る。稲妻が光る度に稲が千石ずつ実るという云い伝えがあるが、どういう処から割り出したものであろう。・・・ 寺田寅彦 「歳時記新註」
・・・ 緩い傾斜を、二つ程昇り降りしました。それから、黒い大きな路について、暫らく歩きました。 稲光が二度ばかり、かすかに白くひらめきました。草を焼く匂がして、霧の中を煙がほっと流れています。 達二の兄さんが叫びました。「おじいさ・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
出典:青空文庫