・・・四月九日〔以下空白〕一千九百廿五年五月五日 晴まだ朝の風は冷たいけれども学校へ上り口の公園の桜は咲いた。けれどもぼくは桜の花はあんまり好きでない。朝日にすかされたのを木の下から見ると何だか蛙の卵のような気がす・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・〔以下原稿数枚?なし〕 入れを右手でつかんで立っていました。〔以下原稿空白〕 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・一昨年修学旅行で〔以下数文字分空白〕「お父さんはこの次はおまえにラッコの上着をもってくるといったねえ。」「みんながぼくにあうとそれを云うよ。ひやかすように云うんだ。」「おまえに悪口を云うの。」「うん、けれどもカムパネルラなん・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・いくつもの峠を越えて海藻の〔数文字空白〕を着せた馬に運ばれて来たてんぐさも四角に切られて朧ろにひかった。嘉吉は子供のように箸をとりはじめた。 ふと表の河岸でカーンカーンと岩を叩く音がした。二人はぎょっとして聞き耳をたてた。 音はなく・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・い、丘の小さなぶどうの木が、よぞらに燃えるほのおより、もっとあかるく、もっとかなしいおもいをば、はるかの美しい虹に捧げると、ただこれだけを伝えたい、それからならば、それからならば、あの……〔以下数行分空白〕 「マリヴロン先生。どうか・・・ 宮沢賢治 「マリヴロンと少女」
・・・その思想的空白、ファシズムの暗いほらあなにうちこまれていた理性のゆがみと弱視のために、この四年間日本の民主主義は独特な障害に面してきています。猪木氏の出現は、今日の若い読者層が過去の社会科学の文献に通じていず、したがって同氏が論拠とされてい・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 実に、この十年の空白の傷は大きく深い。そして、こんにち商業新聞の頁の上に、昭和初頭と同じように講談社、主婦之友出版雑誌の大広告を見るとき、この評論集におさめられている「婦人雑誌の問題」の本質が、更に複雑な隷属の要因を加えて、わたしたち・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
この集には「冬を越す蕾」につづいて一九三七年から一九四一年のはじめまでに執筆された文芸評論があつめられている。しかし、このまる三年間には、一ヵ年と四五ヵ月にわたる空白時代がはさまっている。一九三八年一月から翌る年のなかごろ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・それからあとにつづく、より若い、より未熟ではあるが前途の洋々とした作家というものの層は、空白となっている。このことは、とりもなおさず、過去の文学の休止符はどの辺でうたれたかというきびしい現実を示す一方、この数年の間、日本の民衆生活内部にある・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・この病的にあらわされている主我とその心理傾向は、主観において強烈でありながら、客観的には一種の無力状態であるから、より年少な世代の精神的空白をみたし、戦争によって脳髄をぬきとられた青春にその誇りをとりもどし、その人間的心持に内容づけを与えて・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
出典:青空文庫