・・・けれども、監獄に抛り込んである首謀者共が、深夜そうっと抜け出して来て、ブン殴っておいて、またこっそりと監房へ帰って、狸寝入りをしている、と云う考えは穿ちすぎていた。けれども、前々からそう云う計画が立てられてあっただろう、とは考えられない事で・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・ そして田野に円舞して、笑いさざめき歌を歌う生命の活気もなければ、専念に思考を練って穿ちに穿って行く強度も無く、表情が、力の欠乏に生気を失って居ると全く同様の状態が内奥の魂にまで食い入って居ります。愛する者をして愛さしめよ! 良人と自己・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ このような考えのめぐらしかたは、或人にとって、あまり裏まで穿ちすぎた辛辣さと思えるかもしれない。けれども、決して穿ちすぎではない。今日の現実の内包している諸事情を、真に人民としての洞察と無私にたって観察すれば、こういう幾本かの筋が、く・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・自分達の本堂に在す仏を拝んでは、次の瞬間に冷静な美術批評家ぶって見、それを些か誇とする――私の穿ちすぎた感じ方かも知れないが、そこに何とも云えず佗びしいものがある。本気で修業する僧と、外来の者を案内したり何かする事務員とは別々な方が自然だ。・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・ここに来るには、横に道を取りて、杉林を穿ち、迂廻して下ることなり。これより鳳山亭の登りみち、泉ある処に近き荼毘所の迹を見る。石を二行に積みて、其間の土を掘りて竈とし、その上に桁の如く薪を架し、これを棺を載するところとす。棺は桶を用いず、大抵・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫