・・・所が、昨年の秋からまた精神に何か動揺が起ったらしく、この頃では何かと異常な言動を発して、私を窘める事も少くはございません。ただ、私が何故妻のヒステリイを力説するか、それはこの奇怪な現象に対する私自身の説明と、ある関係があるからで、その説明に・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・ と引捻れた四角な口を、額まで闊と開けて、猪首を附元まで窘める、と見ると、仰状に大欠伸。余り度外れなのに、自分から吃驚して、「はっ、」と、突掛る八ツ口の手を引張出して、握拳で口の端をポン、と蓋をする、トほっと真白な息を大きく吹出す…・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・て叔父にも可愛がられていたところ、不幸にしてその叔母が病気で死んでしもうて、やがて叔父がどこからか連れて来たのが今の叔母で、叔父は相変らず源三を愛しているに関らず、この叔父の後妻はどういうものか源三を窘めること非常なので、源三はついに甲府へ・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・窘められた嫁が姑になってまた嫁を窘める。古今同嘆である。当局者は初心を点検して、書生にならねばならぬ。彼らは幸徳らの事に関しては自信によって涯分を尽したと弁疏するかも知れぬ。冷かな歴史の眼から見れば、彼らは無政府主義者を殺して、かえって局面・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・とクララ窘める如くに云う。ウィリアムは嬉しき声に Druerie ! と呼ぶ。クララも同じ様に Druerie ! と云う。籠の中なる鸚鵡が Druerie ! と鋭どき声を立てる。遙か下なる春の海もドルエリと答える。海の向うの遠山もドルエ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
出典:青空文庫