・・・フレンチが一昨日も昨日も感じていて、友達にも話し、妻にも話した、死刑の立会をするという、自慢の得意の情がまた萌す。なんだかこう、神聖なる刑罰其物のような、ある特殊の物、強大なる物、儼乎として動かざる物が、実際に我身の内に宿ってでもいるような・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・助手三人と、立ち会いの医博士一人と、別に赤十字の看護婦五名あり。看護婦その者にして、胸に勲章帯びたるも見受けたるが、あるやんごとなきあたりより特に下したまえるもありぞと思わる。他に女性とてはあらざりし。なにがし公と、なにがし侯と、なにがし伯・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・が、いずれにも、しかも、中にも恐縮をしましたのは、汽車の厄に逢った一人として、駅員、殊に駅長さんの御立会になった事でありました。大正十年四月 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・……ですが事実にも何にも――手前も隣郡のお附合、……これで徽章などを附けて立会いました。爺様の慌てたのを、現にそこに居て、存じております。が、別に不思議はありません。申したほどの嶮道で、駕籠は無理にもどうでしょうかな――その時七十に近い村長・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・――人も立ち会い、抱き起こし申す縮緬が、氷でバリバリと音がしまして、古襖から錦絵を剥がすようで、この方が、お身体を裂く思いがしました。胸に溜まった血は暖かく流れましたのに。―― 撃ちましたのは石松で。――親仁が、生計の苦しさから、今夜こ・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・わたくしも立会人を連れて参りませんから、あなたもお連にならないように希望いたします。ついでながら申しますが、この事件について、前以て問題の男に打明ける必要はないと信じます。その男にはわたくしが好い加減な事を申して、今明日の間遠方に参っていさ・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・お立ち会いの皆々様。孫はあなた方の御注文遊ばした梨の実の為に命を終えたのでございます。どうぞ葬いの費用を多少なりともお恵み下さいまし。」 これを聞くと、見物の女達は一度にわっと泣き出しました。 爺さんは両手を前へ出して、見物の一人一・・・ 小山内薫 「梨の実」
・・・ 印度人は席へ下りて立会人を物色している。一人の男が腕をつかまれたまま、危う気な羞笑をしていた。その男はとうとう舞台へ連れてゆかれた。 髪の毛を前へおろして、糊の寝た浴衣を着、暑いのに黒足袋を穿いていた。にこにこして立っているのを、・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・子供衆に遺して行った多くの和漢の書籍は、親戚の立会の上で、後仕末のために糴売に附せられた。 桜井先生の長い立派な鬚は目立って白くなった。毎日、高瀬は塾の方で、深い雪の積って行くような先生の鬚を眺めては、また家へ帰って来た。生命拾いをした・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・お婿さんと立会人とで球を突いているというわけさ。婚礼の晩がこんな風では、行末どうなるだろうと思ったの。よくまあ、お婿さんになって、その晩に球なんぞが突けたことね。お嫁さんもお嫁さんで、よくまあ、滑稽雑誌なんぞが見ていられたことね。お嫁さんの・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
出典:青空文庫