・・・僕の従来の経験から割り出されたこの人生哲学がどこまで立証されるかは、僕の経験をさらに続行することによってのみ立証されることで、そのほかには立証のしようがないのだから仕方がない。 さて僕の最近の消息を兄に報じたついでに、もう一つお知らせす・・・ 有島武郎 「片信」
・・・死ぬるがいいとすすめることは、断じて悪魔のささやきでないと、立証し得るうごかぬ哲理の一体系をさえ用意していた。そうして、その夜の私にとって、縊死は、健康の処生術に酷似していた。綿密の損得勘定の結果であった。私は、猛く生きとおさんがために、死・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・そうだとすると電車の会社はこの家の持ち主に明白な損害を直接に与えたものだという事が科学的に立証されるわけである。これによく似た場合は物質的のみならず精神的の各方面にも至るところにあるが損害をかけた人も受けた人も全然その場合の因果関係に心づか・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・一口でいうと、自己本位という四字をようやく考えて、その自己本位を立証するために、科学的な研究やら哲学的の思索に耽り出したのであります。今は時勢が違いますから、この辺の事は多少頭のある人にはよく解せられているはずですが、その頃は私が幼稚な上に・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ことを立証した最近の文学作品において、はっきり一つの新時代を画した。文体と様式にも著しい変化がもたらされているのである。この複雑雄大なテーマと素材を、その隅々まで描写しつくしたらば、作品は現在あるより少くとも倍の長篇になるべきであった。才能・・・ 宮本百合子 「ゴルバートフ「降伏なき民」」
・・・ これから数十回継続されてゆく立証段階で、よび出される百二、三十人の証人と、林弁護人の弁論中にあらわにされた検事団の偽証罪をかざした証人操作法とは、どのようにからみ合い、どのような情景を法廷にくりひろげてゆくだろうか。世論が公正に監視を・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ が、この奴隷商人の宣伝が嘘であることを立証したのは十九世紀以来の探検家である。なるほどアフリカの沿岸には、奴隷商人が荒し回った限り、ニグロ固有の文化はなんにも残っていない。そこにあるのはヨーロッパの安物商品、ズボンをはいたみじめなニグ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・パウロはますます熱して永生の存在を立証する彼自身の体験について語り始める。物見高いアテネ人は――「ただ新しきことを告げあるいは聞くことにのみその日を送れる」アテネ人は、また一つの新しい神が輸入せられそうになったことに非常な興味を起こして、ア・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・を意味し得るようなものでないということを遺憾なく立証した。ここで自然科学崇拝の傾向を破産しなければならぬ。この気分の変化は少なくとも人生をまじめに考える人々の間では、十分強く経験せられたように見える。文芸復興期以来しきりに重ねられて来た人間・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫