・・・これが時の精錬器械にかかって渾然とした一つの固有文化を形成するまでには何百年待たなければならないことか見当もつかない次第である。おそらくいつまでもそうならないところに日本文化の特徴があるかもしれない。 あひるは四五日の間に目に見えて肥っ・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・例えば鉱のように種々な異分子を含んだ自然物でなくって純金と云ったように精錬した忠臣なり孝子なりを意味しております。かく完全な模型を標榜して、それに達し得る念力をもって修養の功を積むべく余儀なくされたのが昔の徳育であります。もう少し細かく申す・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・前じきそこにあったんですが掛手金山の精錬所(ああ、金鉱を搗(ええ、そう、そう、水車って云えば水車でさあ。ただ粟や稗(そしてお家はまだ建たなかったんですね、いやお食事のところをお邪魔 学生は立とうとした。嘉吉はおみちの前でもう少してきぱき・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・瀝青ウラン鉱からラジウムを引き出すことに成功した彼らが、その特許を独占して商業的に巨万の富を作ってゆくか、それとも、あくまで科学者としての態度を守ってその精錬のやり方をも公表し、人類科学の為に開放するか、二つの中のどちらかに決定する種類のも・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・彼等はラジウム精錬の特許を独占して驚くべき富豪になる代りに、人類へその科学上の発見を公開して、キュリー夫人は五十歳を越してもソルボンヌ大学教授としての収入だけで生活して行った。キュリー夫妻の人間としての歴史的な価値は、その十五分ほどの間の判・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・テエヌは十九世紀初頭の「パリは全世界のあらゆる思想が詰込まれ、精錬された貯蔵所であり、蒸溜器である」ことを認めている。「かくの如く神経過敏になり、かくの如き環境に育って、彼等はいかなる種類の思想にも喜びを感じることが出来、しかも奇抜な形をと・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫