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・・・番紅花の紅なるを咎むる勿れ。桂枝の匂へるを咎むる勿れ。されど我は悲しいかな。番紅花は余りに紅なり。桂枝は余りに匂ひ高し。 ソロモンはこう歌いながら、大きい竪琴を掻き鳴らした。のみならず絶えず涙を流した。彼の歌・・・
芥川竜之介
「三つのなぜ」
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・・・ひと月前の七月十三日の夜には哲学者のA君と偶然に銀座の草市を歩いて植物標本としての蒲の穂や紅花殻を買ったりしたが、信州では八月の今がひと月おくれの盂蘭盆で、今夜から十七日まで毎晩この温泉宿の前の広場で盆踊りがあるという。 盆踊りといえば・・・
寺田寅彦
「沓掛より」