・・・――近習の者は、皆この鬢をむしるのを、彼の逆上した索引にした。そう云う時には、互に警め合って、誰も彼の側へ近づくものがない。 発狂――こう云う怖れは、修理自身にもあった。周囲が、それを感じていたのは云うまでもない。修理は勿論、この周囲の・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・により、そのほかには小川氏著「日本地図帳地名索引」、また「言泉」等によることにした。それにしても、たとえば海門岳が昔は開聞でヒラキキと呼ばれ、ヒラキキ神社があるなどと言われるとちょっと迷わされるが、よくよく考えてみるとむしろカイモンが始めで・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・ 自分の五十年の生涯の記録の索引を繰って杏仁水の項を見ると、先ずこの二つの箇条が出て来る。 近来杏仁水の匂のする水薬を飲まされた記憶はさっぱりない。久しく嗅がなかった匂であったために、今このアイスクリームの匂の刺戟によって飛び出した・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・そうしてそれがそうであることによって、それは現代世相の索引でありまた縮図ともなっているのである。 食堂や写真部はもちろん、理髪店、ツーリスト・ビュロー、何でもある。近頃郵便局の出来たところもある。職業紹介所と結婚媒介所はいまだないようで・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・ 短歌俳諧に現われる自然の風物とそれに付随する日本人の感覚との最も手近な目録索引としては俳諧歳時記がある。俳句の季題と称するものは俳諧の父なる連歌を通して歴史的にその来歴を追究して行くと枕草子や源氏物語から万葉の昔にまでもさかのぼること・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・いわゆる因果法と云うものはただ今までがこうであったと云う事を一目に見せるための索引に過ぎんので、便利ではあるが、未来にこの法を超越した連続が出て来ないなどと思うのは愚の極であります。それだから、よく分った人は俗人の不思議に思うような事を毫も・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・特に、世界とその一環としての日本の文学が、質的に大きい変転を行い、波瀾を経つつある最近の「十年間あまり、国文学研究の中道が、殆どすべて本文校訂とか稿本作成とか、考証とか、索引作成とかいう資料整理的の仕事それ自体を目的とする範囲を出なかったこ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 震災後の帝国図書館は知らないが、それ以前でも、上野の図書館は決して愉快なところでもなければ、図書館として充分利用出来る便利な処でもなかった。 索引や蔵書の或る部門の不備さ等は云わないでも、私には、あの雰囲気――役所くさい、うるおい・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・度々同じ閲覧室で出会い、ときには必要な本の索引のひきかたをきき合ったりすることから、婦人閲覧室の仲間が出来て、東京でたった一つ、それがきっかけとなっている興味ある婦人たちのグループがある。その人たちは、十年前には、それぞれ専門学校生徒だった・・・ 宮本百合子 「図書館」
出典:青空文庫