・・・そのかわりにそのカメラの視野内に起こった限りの現象は必然的なものも偶然的なものも委細かまわず細大もらさず記録され再現されるのである。たとえば幕が落ちる途中でちょっと一時何かに引っかかったが、すぐに自然にはずれて首尾よく落ちる、その時の幕の形・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・本塾の実学をしてますます実ならしめ、細大洩らさず、すべて実際の知見を奨励し、満塾の学生をして即身実業の人とならしめ、かの養蚕の卵より卵を生ずるに等しく、本塾に卒業したる者がただわずかに学校の教師となるか、または役人となりて、孤児・寡婦の生計・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・ そもそも洋学のもって洋学たるところや、天然に胚胎し、物理を格致し、人道を訓誨し、身世を営求するの業にして、真実無妄、細大備具せざるは無く、人として学ばざるべからざるの要務なれば、これを天真の学というて可ならんか。吾が党、この学に従事す・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・うするが如き、実際直接の要用なれども、内外人民の交際は甚だ繁忙多端にして、外国人が我が日本国の事情を詳らかにせんとするは、容易なることにあらざるが故に、彼らをして我が真面目を知らしめんとするには、事の細大に論なく、仮令え無用に属する外見の虚・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ これまで果してプロレタリア作家たちは、数少い婦人作家をもこめて、十分労働者・農民及び勤労婦人大衆の日常的な、こまかい、だが本気な闘争の経験を、細大洩さず作品の中に活かして来ているだろうか? 資本主義経済の行きづまりは、工場閉鎖・首・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・ 風吹けばそよぎ、雨ふればそれなり濡れそぼたれた女主人公の姿が、今は、眼の隅で周囲を細大洩らさず見とおしながら、そのようにそよぎ、濡れそぼつことからさえ依估地に身をひく一人の老人に代ったとすれば、それはどういう現代の心理の徴候と見るべき・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・そして、ヴォドピヤーノフは、極地飛行を空想の中で百千回体験したとき、白熱した想像が描き出してくれた通りに、飛行準備の有様を細大洩さず描写した。更に彼は、そういう自然力と科学の力との間にある可能を現実とするために決定的な大きい作用をもたらす人・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
出典:青空文庫