・・・ 先年侯井上が薨去した時、当年の弾劾者たる学堂法相の著書『経世偉勲』が再刊されたのは皮肉であった。『経世偉勲』の発行されたのはあたかも侯井上の欧化政策時代であって、その頃学堂はジスレリーに私淑しているという評判だった。が、政治家としての・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・私が今日ここにお話しいたしましたデンマークとダルガスとにかんする事柄は大いに軽佻浮薄の経世家を警むべきであります。 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・上下挙って奔走に衣食するようになれば経世利民仁義慈悲の念は次第に自家活計の工夫と両立しがたくなる。よしその局に当る人があっても単に職業として義務心から公共のために画策遂行するに過ぎなくなる。しかのみならず日露戦争も無事に済んで日本も当分はま・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・今一歩を譲り、人生は徳義を第一として、これに兼ぬるに物理の知識をもってすれば、もって社会の良民たるに恥じず。経世の学は必ずしもこれを学問として学ばざるも、おのずから社会の実際にあたりてこれを得ること容易なり。 たとえば今の日本政府にてい・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・誠に無慙なる次第なれども、自から経世の一法として忍んでこれを断行することなるべし。 すなわち東洋諸国専制流の慣手段にして、勝氏のごときも斯る専制治風の時代に在らば、或は同様の奇禍に罹りて新政府の諸臣を警しむるの具に供せられたることもあら・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・これ等の人々は、若いブルジョア日本の建設期に、文化的な活動と文学活動との分化を未だ認識せず、商売をはじめた政治家とひとし並或は一頭角をぬいた経世家として、自身を感じていたのであった。 福沢諭吉は勿論のこと、東海散士、末広鉄腸、川島忠之助・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫