絶望 文造は約束どおり、その晩は訪問しないで、次の日の昼時分まで待った。そして彼女を訪ねた。 懇親の間柄とて案内もなく客間に通って見ると綾子と春子とがいるばかりであった。文造はこの二人の頭をさすって、姉さんの病気は少しは快く・・・ 国木田独歩 「まぼろし」
・・・処が大将の孃さまの綾子さんというのが、この秋山少尉に目をつけたものなんだ。これで行く度に阿母さんが出て来て、色々打ち釈けた話をしちゃ、御馳走をして帰す。酒のお酌や飯の給仕に出るのがその綾子さんで、どうも様子が可怪しいと思ってるてえと、やがて・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・――伊藤綾子の言葉。 伊藤綾子 二十五歳――今年六歳 独身、男性、恋愛の欠乏から生じる不安、生活のよりどころなさ。 菊池寛「いくつです」「二十五です」「へえー、いつの間にそんなに年をとりました――・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫