・・・つまり堂脇のじじいが僕たちの運命をすっかり狂わしてしまったんだよ……どうだ少しドモ又に似てきたか……他人の運命を狂わした罪科に対して、堂脇は存分に罰せらるべきだよ。沢本 そうだとも。なにしろあいつの金力が美の標準をめちゃくちゃにするた・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ が、ただここに、あらゆる罪科、一切の制裁の中に、私が最も苦痛を感ずるのは、この革鞄と、袖と、令嬢とともに、私が連れられて、膝行して当日の婿君の前に参る事です。 絞罪より、斬首より、その極刑をお撰びなさるが宜しい。 途中、田畝道・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・それよりか、身に覚えなき罪科も何の明しの立てようなく哀れ刑場の露と消え……なんテいう方が、何となく東洋的なる固有の残忍非道な思いをさせてかえって痛快ではないか。青山原宿あたりの見掛けばかり門構えの立派な貸家の二階で、勧工場式の椅子テーブルの・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・そして「雀から聖骸がとれるかもしれないよ。罪科もないのに苦しみを受けた致命者なんだから……」 ゴーリキイは、いかにも彼の性質らしい現実的な問いを発した。「あの雀は死んでいないのかい?」「いや、物置に飛んで来たのを帽子でおさえてし・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫