・・・ 彼等は根限り駆ける! すると車が早く廻る。ただそれ丈けであった。車から下りて、よく車の組立を見たり「何のために車を廻すか?」を考える暇がなかった。 秋山も小林も極く穏かな人間であった。秋山は子供を六人拵えて、小林は三人拵えて、秋山・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・羽なくして空に翔るべし、鰭なくして海に潜むべし。音なくして音を聴くべく、色なくして色を観るべし。かくのごとくして得来たるもの、必ず斬新奇警人を驚かすに足るものあり。俳句界においてこの人を求むるに蕪村一人あり。翻って芭蕉はいかんと見ればその俳・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 藍子は、一寸躊躇していたが、元気よく駆けるように大日坂を下り、石切橋から電車に乗った。 尚子の処に、思いがけず清田はつ子、森鈴子という連中が来ていた。明治末葉の、漠然婦人運動者と呼ばれている人々であった。 黒い紋羽二重の被布に・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・素足で街道のぬかるみを駆けるので、ぴちゃぴちゃ音がした。 その時ツァウォツキイは台所で使う刃物を出した。そしてフランチェンスウェヒを横切って、ウルガルン王国の官有鉄道の発起点になっている堤の所へ出掛けた。 ここはいつもリンツマンの檀・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫