・・・此の世に希望なくば潔く自決すべし」と書いてあった。そして未亡人は死を選んだのであった。私は「此の世に希望なくば」云々と書き得たことが如何にこの夫婦の平常の愛の結合の純熱であったかを思いやられて感動を禁じ得ない。また清元の十六夜清心に・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・われわれ軍人は、あく迄も抗戦をつづけ、最後には皆ひとり残らず自決して、以て大君におわびを申し上げる。自分はもとよりそのつもりでいるのだから、皆もその覚悟をして居れ。いいか。よし。解散」 そう言って、その若い中尉は壇から降りて眼鏡をはずし・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・もし何か自分の悪事が見付かって罰せられそうになると、大急ぎでその毒を仰いで自決をしようとする。これは存外見上げたものだと思われる。ところが困った事にはそういう罪人をつかまえる為政者の方でもちゃんとそれを承知しているから、あらかじめ犬の糞を用・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
・・・各国家民族が自己を越えて一つの世界を構成すると云うことは、ウィルソン国際連盟に於ての如く、単に各民族を平等に、その独立を認めるという如き所謂民族自決主義ではない。そういう世界は、十八世紀的な抽象的世界理念に過ぎない。かかる理念によって現実の・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
二、三日前の新聞に、北満の開拓移民哈達河開拓団二千名の人々が、敗戦と同時に日本へ引揚げて来る途中、反乱した満州国軍の兵に追撃され、四百数十名の婦女子が、家族の内の男たちの手にかかって自決させられたという記事がありました。・・・ 宮本百合子 「講和問題について」
出典:青空文庫