・・・ けだし、我々明治の青年が、まったくその父兄の手によって造りだされた明治新社会の完成のために有用な人物となるべく教育されてきた間に、べつに青年自体の権利を認識し、自発的に自己を主張し始めたのは、誰も知るごとく、日清戦争の結果によって国民・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ こういう風に、自発的に、お母さんや、お姉さんの感動されたものを知りたいと希うでありましょう。これが、一般に、子供というものゝ心理であります。 これを要するに、大人が、功利的に、機械的に、強制的に、はじめから教育することを目的として・・・ 小川未明 「読んできかせる場合」
・・・自由とは自然法則に従って進行する一系列の現象を自ら始める絶対的に自発的な原因または能力と呼んだ。すなわち、「何々からの自由でなく、規定の一つ多い積極的自由である。規定が一つ減じることは因果律が許さないが、一つ増加することは差支えない。しから・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・こそ自発的に読書への欲求を促すものである。法然はその「問い」の故に比叡山で一切経をみたびも閲読したのである。 書物は星の数ほどある。しかしかような「問い」をもってたち向かうとき、これに適切に答え得る書物はそれほど多いものではないのである・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・四人の大学生の間に割込んで、先生の御高説を拝聴したのであるが、このたびの論説はなかなか歯切れがよろしく、山椒魚の講義などに較べて、段違いの出来栄えのようであったから、私は先生から催促されるまでも無く、自発的に懐中から手帖を出して速記をはじめ・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・これに反して個々の研究者の直接の体験を記述した論文や著書には、たとえその題材が何であっても、その中に何かしら生きて動いているものがあって、そこから受ける暗示は読む人の自発的な活動を誘発するある不思議な魔力をもっている。そうして読者自身の研究・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・問ばかりで返答ができないからほとんど黙っていたのであるが、翌日のその新聞を見るとその記者の発した奇問がすべて筆者によって肯定された形で、しかもそれは記者の問いに対する筆者の答えとしてではなく筆者自身が自発的に滔々と弁じたような形式で掲載され・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・実験を授ける効果はただ若干の事実をよく理解し記憶させるというだけではなく、これによって生徒の自発的研究心を喚起し、観察力を練り、また困難に遭遇してもひるまずこれに打勝つ忍耐の習慣も養い、困難に打勝った時の愉快をも味わわしめる事が出来る。その・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・人が教えらえたる信条のままに執着し、言わせらるるごとく言い、させらるるごとくふるまい、型から鋳出した人形のごとく形式的に生活の安を偸んで、一切の自立自信、自化自発を失う時、すなわちこれ霊魂の死である。我らは生きねばならぬ。生きるために謀叛し・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ ゆえに本書の如きは民間一個人の著書にして、その信不信をばまったく天下の公論に任じ、各人自発の信心をもってこれを読ましむるは、なお可なりといえども、いやしくも政府の撰に係るものを定めて教科書となし、官立・公立の中学校・師範学校等に用うる・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
出典:青空文庫