・・・私は、自重していたいのである。ここは何とかして、愚色を装い、「本日は晴天なり、れいの散歩など試みしに、紅梅、早も咲きたり、天地有情、春あやまたず再来す」 の調子で、とぼけ切らなければならぬ、とも思うのだが、私は甚だ不器用で、うまく感・・・ 太宰治 「作家の像」
・・・本当の自覚、自愛、自重がない。勇気のある行動をしても、そのあらゆる結果について、責任が持てるかどうか。自分の周囲の生活様式には順応し、これを処理することに巧みであるが、自分、ならびに自分の周囲の生活に、正しい強い愛情を持っていない。本当の意・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ 日本有数という形容は、そのまま世界有数という実相なのだから、自重しなければならぬ。 太宰治 「世界的」
・・・沢田先生は、私を教員室にお呼びになって、慢心してはいけない、自重せよ、と言ってお叱りになりました。私は、くやしく思いました。けれども、まもなく小学校を卒業してしまいましたので、そのような苦しさからは、どうやら、のがれる事が出来たのでした。お・・・ 太宰治 「千代女」
・・・御自重下さい。」 菊子さん、私はいま此の手紙を書き写しながら何度も何度も泣きべそをかきました。全身に油汗がにじみ出る感じ。お察し下さい。私、間違っていたのよ。私の事なんか書いたんじゃ無かったのよ。てんで問題にされていなかったのよ。ああ恥・・・ 太宰治 「恥」
・・・その前年の明治三十九年に、功三級に叙せられ、金鵄勲章を授けられ、また勲二等に叙せられ、旭日重光章を授けられているのである。自重しなければならぬ人であったのに、不良少年じみた新聞記者と、「何故今遣らないのだ。」「うむ。遣る。」 な・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・「御自重なさいね。僕は、責任をもって、あなたを引き受けたのです。須々木さんのためにも、しっかりしていて下さい。僕は、乙やんを信じているのだ。どんなことがあったって、僕は乙やんを支持する。じゃあまた、そのうち、来ます。」「どうも、きょ・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・若し、出来ればおふくろや子供の面倒を見てやって貰いたい。自重健闘を祈る。―― 吉田は、紙切れに鉛筆で走り書きをして、母に渡した。「これを依田君に渡して下さい。私はちょっと行って来ますから。心配しないで下さいね。大丈夫だから」・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・我輩は婦人の為めに謀り、軽々女大学の文に斯かれずして自尊自重、静に自身の権利を護らんことを勧告するものなり。 又云く、古の法に女子を産めば三日床の下に臥さしむと言えり。是れも男は天に比え女は地に象る云々と。是れ亦前節同様の空論にして取る・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・吾々は諸氏の自尊自重を助成する者なり。 本塾に入りて勤学数年、卒業すれば、銭なき者は即日より工商社会の書記、手代、番頭となるべく、あるいは政府が人をとるに、ようやく実用を重んずるの風を成したらば、官途の営業もまた容易なるべく、幸にして資・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
出典:青空文庫