・・・の岩波本を活動帰りの電車の中ででも少しばかりのぞいて見れば、このごろ舶来のモンタージュ術と本質的に全く同型で、しかもこれに比べて比較にならぬほど立派なものが何百年前の日本の民衆の間に平気で行なわれていたことを発見して驚くであろう。ウンター・・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・この点は舶来のものには大概ちゃんと考慮してあるようである。第三にはフィルムの毎秒のコマ数によっておのずから規定された速度の制約を無視して、快速な運動を近距離から写した場面が多い。そういうところはただ目まぐるしいだけで印象が空疎になるばかりで・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・じょさいのない中老店員の一人は、顧客の老軍人の秘蔵子らしいお坊っちゃんの自分の前に、当時としてはめったに見られない舶来の珍しいおもちゃを並べて見せた。その一つはねずみ色の天鵞絨で作った身長わずかに五六寸くらいの縫いぐるみの象であるが、それが・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・オリジナルは児童用の粗末な藁紙ノートブックに当時丸善で売っていた舶来の青黒インキで書いたものだそうであるが、それが変色してセピアがかった墨色になっている。その原稿と色や感じのよく似た雁皮鳥の子紙に印刷したものを一枚一枚左側ページに貼付してそ・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・ともかくも自分の子供の時にはみんな貴重な舶来物であった品物が、ちゃんとここらのこんな見すぼらしい工場でできてきれいなラベルなどをはられて市場に出てくるのであろう。それだけでも日本がえらくなったには相違ない。これでもし世界じゅうの他の国が昔の・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・そのころ田舎では珍しかった舶来の彩色石版の美しさにひどく心酔したものであった。われわれはそれを「油絵」と呼んでいたが、ほんとうの油絵というものはもちろんまだ見た事がなかったのである。この版画の油絵はたしかに一つの天啓、未知の世界から使者とし・・・ 寺田寅彦 「青衣童女像」
・・・錠をはめられ板木を取壊すお上の御成敗を甘受していたのだと思うと、時代の思想はいつになっても、昔に代らぬ今の世の中、先生は形ばかり西洋模倣の倶楽部やカフェーの媛炉のほとりに葉巻をくゆらし、新時代の人々と舶来の火酒を傾けつつ、恐れ多くも天下の御・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・身体へつけるいっさいの舶来品を売っていたと云っても差支ない。ところが近頃になるとそれが変ってシャツ屋はシャツ屋の専門ができる、傘屋は傘屋、靴屋は靴屋とちゃんと分れてしまいました。靴足袋屋……これはまだ専門はできないようだが、今にできるだろう・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・これで浪漫主義の文学と自然主義の文学とが等しく道徳に関係があって、そうしてこの二種の文学が、冒頭に述べた明治以前の道徳と明治以後の道徳とをちゃんと反射している事が明暸になりましたから、我々はこの二つの舶来語を文学から切り離して、直に道徳の形・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・しかるに思いがけもなく抹茶趣味の左千夫からこの舶来の花を貰うて、再び昔のように小桜草と併べて置かれてあるのが満足であった。○病牀におけるこの頃の問題はどうして日を送るかという事である。からだの痛みが激しくて少しも止まらぬような時はとにか・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
出典:青空文庫