・・・そして看板がかかって、「舶来ウェスキイ 一杯、二厘半。」と書いてありました。 あまがえるは珍らしいものですから、ぞろぞろ店の中へはいって行きました。すると店にはうすぐろいとのさまがえるが、のっそりとすわって退くつそうにひとりでべろべ・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ その盤面は青じろくて、ツルツル光って、いかにも舶来の上等らしく、どこでも見たことのないようなものでした。 赤シャツは右腕をあげて自分の腕時計を見て何気なく低くつぶやきました。「あいつは十五分進んでいるな。」それから腕時計の竜頭・・・ 宮沢賢治 「耕耘部の時計」
・・・ 舶来のショールで母さんの大事にしているのを、さむいからってかりて来たのに」「降りるさわぎのとき、とられたのかもしれない。すっと引っぱって、とるんですて」「まア! わたし帰れないわ、どうしましょう。届けたって、出ないでしょうね!」・・・ 宮本百合子 「一刻」
・・・こんにちでは、昔ながらの日本のコンプレックスが解かれきっていない上に舶来のファクターが重って来て、日本の知性、良心のコンプレックスは実に圧の高いものになった。 第一次大戦から第二次大戦までの文学に、フロイドが与えた影響は非常に広汎であっ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ 現代文学の中には、まともに、野暮にくい下って、舶来博学の鬼面に脅かされない日本の批評の精神が立ち上らなければならない時だと思う。 日本の社会生活と思想の伝統に、ヨーロッパの近代市民の性格が欠けているということ。従って、近代のヨーロ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・種々の研究材料は、切支丹に関するもの、海外貿易に関するもの、その他、皆散在している。舶来された芸術品など、極めて立派なものが箇人の蔵にしまわれている由。それ故、長逗留をし、縁故を辿って気永く研究しようとする篤志家は兎も角、私のように貧しい予・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・「上等舶来、手袋有」などと書いたのがバタバタ云って居る。東京で歳暮の町を歩いて一番目につく羽子板等はあんまり飾ってなく、あれば色取った紙を板にはりつけた二三銭のか、それでなければ八重垣姫や助六等を粗末な布で押し絵にしたものばかりである。凧の・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・西鶴の短篇小説の中には、大坂や江戸の大商人の妻や娘が、どんなに贅を極めた服装をし、帯に珊瑚をつけ、珍らしい舶来の呉絽服綸の丸帯をつくり、高価な頭飾りをつくったかということが、こまごまと書かれている。金銭出納細目帳のようにまで書かれている。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・創作をするものは、西洋人の真似をして、舶来品まがいの危険物を製造するのである。 安寧秩序を紊る思想は、危険なる洋書の伝えた思想である。風俗を壊乱する思想も、危険なる洋書の伝えた思想である。 危険なる洋書が海を渡って来たのは Angr・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・石鹸は七十銭位の舶来品を使っている。何故そんな贅沢をするかと人が問うと、石鹸は石鹸でなくてはいけない、贋物を使う位なら使わないと云っている。五分刈頭を洗う。それから裸になって体じゅうを丁寧に揩く。同じ金盥で下湯を使う。足を洗う。人が穢いと云・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫