・・・「妻は小学校しか卒業していない女だから、子供を虐める事は出来ない。自分が子供を叱る時には妻は一切口を出さぬ事にしている。」とか云って、博士はそれを継母の罪でないように云っている。しかし、子供の教育は必ずしも母親自身の学問の程度に関るものでは・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・軍律を厳守することでも、新兵を苛めることでも、田舎に帰って威張ることでも、すべてにおいて、原田重吉は模範的軍人だった。それ故にまた重吉は、他の同輩の何人よりも、無智的な本能の敵愾心で、チャンチャン坊主を憎悪していた。軍が平壌を包囲した時、彼・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・でも餓鬼大将の悪戯小僧は、必ず僕を見付け出して、皆と一緒に苛めるのだった。僕は早くから犯罪人の心理を知っていた。人目を忍び、露見を恐れ、絶えずびくびくとして逃げ回っている犯罪者の心理は、早く既に、子供の時の僕が経験して居た。その上僕は神経質・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・と、吉里は笑ッて、「もう虐めるのはたくさん」 店梯子を駈け上る四五人の足音がけたたましく聞えた。「お客さまア」と、声々に呼びかわす。廊下を走る草履が忙しくなる。「小万さんの花魁、小万さんの花魁」と、呼ぶ声が走ッて来る。「いやだねえ、・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・ あの気の毒な政子さんを苛める! 若しそんな人が在ったら、芳子さんは真先に、其の人を咎めるでしょう。 芳子さんは、はっきりと、「決して致しません」と云いました。「そうでしょう。なさらないでしょう。けれどもよくお気をおつけ・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
出典:青空文庫