・・・それだのに、こういう独創性や能力は社会的に日本の生産に現れた婦人の地位を高める条件としては、ちっとも蓄積されていない。 例えば今日ではもう昔の物語になってしまった琉球のあの美しい絣織物にしても染めの技術にしても今はみんな壊れてしまってな・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 戦争のある段階まで、いわゆる作家的成長欲やその本質を自問しないで、ただ経験の蓄積を願う古い自然主義風な現実主義から少なからぬ作家たちが国内、国外にあれこれ動員された。ところが、戦争が進むにつれ、軍そのものが、偽りで固めた人民むけ報道の・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・そして、今日かあるいは明日科学の常識がそこまで成長したということのかげにこそファーブルの努力の意味が生きているというのは人類の知識の蓄積されてゆく上の何と感慨深い過程だろう。 第十四話、毛生動物の話は、やはりアメリカの生んだ著名な野生動・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 音楽は文学よりもおくれて入っているから理論的・感性的蓄積が未だ決して豊富でない。それに音楽というもの、音の不断の刺戟というものが人間の頭脳に生理学の上からどう影響するものか、非常に研究されるべき神経学、心理学のテーマがあるとも思われま・・・ 宮本百合子 「期待と切望」
・・・まだその頃、稲子さんの過去の生活にどんな階級的な蓄積があるかということなどについて私は殆ど全く知らなかったから、ごく普通に考えて、私は自分が稲子さんより年上だし劬って上げなければならないという気がしていたのであった。そのことを考えると、私は・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・人間が人間を生かし殺す力の媒介物たる金銭というものの魔術性をあらわにし、それが近代社会を支配する大怪物として蓄積されてゆく過程を明らかにして、人間性の勝利の実質、生産する者が生産を掌握することの自然さを示した社会科学者たちの業績と、それを実・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・主題の強化、題材の蓄積、整理、筋の組立て。それらのためには時間がいる。 文学はその点で、特に小説は、絵画と非常に違う。現に五ヵ年計画第二年目の一九三〇年に見ても、絵画には既に相当五ヵ年計画がもりこまれている。戯曲も、農村の集団化と都会の・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・そして、そういう力なしに大きい作品は書けないのだが、私は自分が過去二三年の間、そのひろくて、熱のある想像力の土台の蓄積のために随分身を粉にしたし、そのおかげで今日自身が仮令僅かなりともそういう文学上の力を再び我ものにしたことを実感しているの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・全体として体力を蓄積なさることが大切ですから、読書なども平常よりは用心してなさいますように。 皆からよろしく。きょうの太郎は眠くって失礼。でも思いがけなかったでしょう。[自注1]中條咲枝より――発信人は咲枝となっているが、百・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・その絶間なく小さい狡いことをされる顧客の大部分がまた過去に於てせくせく蓄めた金をもって引込んで来た人間の、現在中流的偏見に満ちて社会的地位や財産を蓄積しつつある者なのは面白い。天から見たら苦笑される鼬ごっこだ。大体、郊外の住宅地というものは・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
出典:青空文庫