・・・それから、もし、睡蓮が他の水草を次第に圧迫して蔓延するか、しないか、これも問題である。物好きな人があったら、年々写真でもとっておいて、あとで研究したらおもしろそうである。 ついでながら、池には大きな鯉がかなりたくさんいる。あたたかい時候・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・しかもその家が、火事を起し蔓延させるに最適当な燃料で出来ていて、その中に火種を用意してあるのだから、これは初めから地震に因る火災の製造器械を据付けて待っているようなものである。大火が起れば旋風を誘致して焔の海となるべきはずの広場に集まってい・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ 地震があればこわれるような家を建てて住まっていれば地震の時にこわれるのはあたりまえである、しかもその家が、火事を起こし蔓延させるに最適当な燃料でできていて、その中に火種を用意してあるのだから、これは初めから地震に因る火災の製造器械をす・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
何事でも「世界第一」という名前の好きなアメリカに、レコード熱の盛んなのは当然のことであるが、一九二九年はこのレコード熱がもっとも猖獗をきわめた年であって、その熱病が欧州にまでも蔓延した。この結果としてこの一年間にいろいろの・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・去年はこの翡翠の色をした薔薇の虫と同種と思われるものが躑躅にまでも蔓延した。もっともつつじのは色が少し黒ずんでいて、つつじの葉によく似た色をしているのが不思議であった。 何とかしてこの害虫を絶滅する方法はないものだろうかと思うだけで、専・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・もちろん今でも未開時代そのままの模範的な迷信が到るところに行われて、それが俗にいわゆる知識階級のある一部まで蔓延している事は事実であるが、それとは少し趣を異にした事柄で、科学的に験証され得る可能性を具えた命題までが、一からげにして掃き捨てら・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・下卑た根性を社会全体に蔓延させるからね。大変な害毒だ。しかも身分がよかったり、金があったりするものに、よくこう云う性根の悪い奴があるものだ」「しかも、そんなのに限って皮がいよいよ厚いんだろう」「体裁だけはすこぶる美事なものさ。しかし・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・論が、蔓延した。 この混乱と没規準とが頂点に達した一九三四年後半、上述のような混迷した芸術至上主義、人間的文学論に飽き足りない一団の批評家、作家によって、一つの文学的気運が醸し出された。舟橋聖一、豊田三郎、小松清等の諸氏によって提唱され・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 公私逆立った既成政党の腐敗が、忽ち、婦人参政の新しい地域まで悪質な性病のような急スピードで蔓延しつつある。戦争犯罪によって頭株をとられた進歩党が、築地の待合に共産党をのぞく各派の主だつ婦人たちをよんで、出席した者に、進歩党内の重要なポ・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・饑饉が終るとコレラが蔓延し、一揆があちらこちらで起ったが、このとき、怒った大衆の標的とされたのは誰あろう、ともに餓えて疫病と闘った急進的知識人と医者とであった。 このからくりに采配をふるったのは、ツァーの有名な警視総監である大官ポベドノ・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
出典:青空文庫