・・・ 神出鬼没の雲の動作程、美と不可知の力を蔵するものは他にあるまい。しかし、たゞ、それは、自然の意志の反映なのである。即ち、自然なるが故に、自由なのである。言い換えれば自然は、自由そのものであるからだ。 雲に思いを寄せ、追懐と讃美を恣・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・ ――口に蜜ある者は腹に剣を蔵する。一人分八百円ずつ、取るものは取ったが、しかし、果して新聞の広告文通り約束を実行したかどうか。 なるほど、最初の一月は一提の薬と、固定給四十円を交付したが、その後は口実を構えて補給薬も固定給も送らな・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ その内心に私を蔵する者は予言者たり得ない。そのたましいに「天」を宿さぬものは予言者たり得ない。予言者は天意の代弁者であり、その権威に代わる者だからである。 その同時代と、大衆への没落的の愛を抱かぬ者も予言者たり得ない。そのカラーを・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫