・・・しかし非常に粗末な薄っぺらな品である。店屋の人自身がこれはほんのその時きりのものですから永持ちはしませんよと云って断っていたそうである。 どうして、わざわざそんな一時限りの用にしか立たないランプを製造しているのか。そういう品物がどういう・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・という薄っぺらな本を夜学で教わった。その夜学というのが当時盛んであった政社の一つであったので、時々そういう社の示威運動のようなものが行なわれ、おおぜいで提灯をつけて夜の町を駆けまわり、また時々は南磧で繩奪い旗奪いの競技が行なわれた。ある時は・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・生活のまったく絶息してしまったようなこの古い鄙びた小さな都会では、干からびたような感じのする料理を食べたり、あまりにも自分の心胸と隔絶した、朗らかに柔らかい懈い薄っぺらな自然にひどく失望してしまったし、すべてが見せもの式になってしまっている・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・ 白暖簾の懸った座敷の入口に腰を掛けて、さっきから手垢のついた薄っぺらな本を見ていた松さんが急に大きな声を出して面白い事がかいてあらあ、よっぽど面白いと一人で笑い出す。「何だい小説か、食道楽じゃねえか」と源さんが聞くと松さんはそうよ・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ ある種の文学者たち自身が営利的ジャーナリズムに関与しはじめたということのほか、今日どういうやりくりをしてか三百余種の文芸雑誌があるということを思えば『新日本文学』が紙のないためにあんな薄っぺらなものを間遠にしか出しえない事実は、私ども・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
出典:青空文庫