・・・これは言わば細胞組織の百貨店であって、後年のデパートメントストアの予想であり胚芽のようなものであったが、結局はやはり小売り商の集団的蜂窩あるいは珊瑚礁のようなものであったから、今日のような対小売り商の問題は起こらなくても済んだであろう。とに・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・二十くらいもあろうかと思う六角の蜂窩の一つの管に継ぎ足しをしている最中であった。六稜柱形の壁の端を顎でくわえて、ぐるぐる廻って行くと、壁は二ミリメートルくらい長く延びて行った。その新たに延びた部分だけが際立って生々しく見え、上の方の煤けた色・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・こうした上昇流は決して一様に起こることは不可能で、類似の場合の実験の結果から推すと、蜂窩状あるいはむしろ腸詰め状対流渦の境界線に沿うて起こると考えられる。それで鳥はこの線上に沿うて滑翔していればきわめて楽に浮遊していられる。そうしてはなはだ・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
出典:青空文庫