・・・をもっとつめるか、それとも、もっと「あわただしさ」を表象するような他のカットのそうにゅうで置換したらあの大切なクライマックスがぐっと引き立って来はしないかと思われる。 両国の花火のモンタージュがある。前にヤニングス主演の「激情のあらし」・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・考えようではなかなか美しいと思われるのもあるがしかしいずれにしても実に瞬間的な存在を表象するようなものばかりである。このような珍しい現象の記録をそれが消えない今のうちに収集しておくのは、切手やマッチのレッテルの収集よりは有意義であろうと思っ・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・町の音楽隊がセレナーデを奏して通るのを高い窓からグレーチヘンが見おろしている、といったようなきわめて甘いたわいのない子供らしい夢の中からあらゆる具体的な表象を全部抜き去ったときに残るであろうと思われるような、全く形態のない幻想のようなもので・・・ 寺田寅彦 「詩と官能」
・・・ セザンヌがりんごを描くのに決して一つ一つのりんごの偶然の表象を描こうとはしなかった、あらゆるりんごを包蔵する永遠不滅のりんごの顔をカンバスにとどめようとして努力したという話がある。科学が自然界の「事実」の顔を描写するのはまさにかくのご・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ 弛緩の極限を表象するような大きな欠伸をしたときに車が急に止まって前面の空中の黄色いシグナルがパッと赤色に変った。これも赤のあとには青が出、青のあとにはまた赤が出るのである。 これを書き終った日の夕刊第一頁に「紛糾せる予算問題。・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・尤もこんな事は美術とは何の関係もない事ではあるが、それでも感受性の鋭い型の観覧者に取っては、彼等が場内にはいって後に作品から受取る表象の同化異化作用に何らかの影響を及ぼさないものだろうか。こんな事を考えているとバーリントンハウスの玄関や、シ・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・通例の場合においてこれに関する新聞のいわゆる社会面記事はきわめて紋切り形の抽象的な記載であって、読者の官能的印象的な連想を刺激するような実感的表象はほとんど絶無であると言ってもいい。そのかわりに儀式の進行順序や執行者の姓名等は正確に記載され・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・ 新型式中でも最も思い切った新型式としては、モザイックのような表象を漢字交じりで並べたテキストに、そのテキストとはだいぶかけ離れたルビーを並立させたものがある。これらになるともう単に俳句としての型式だけの変異ではなくて、詩というものの本・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・カントの自覚的自己は、デカルトのそれの如く、それ自身によってある実体ではないが、私が考えるということは、私のすべての表象に伴うという。我々の判断的知識は、その綜合統一によって成立するのである。主語となって述語とならない基体が、逆に述語的に主・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・チャンチャン坊主は、無限の哀傷の表象だった。 陸軍工兵一等卒、原田重吉は出征した。暗鬱な北国地方の、貧しい農家に生れて、教育もなく、奴隷のような環境に育った男は、軍隊において、彼の最大の名誉と自尊心とを培養された。軍律を厳守することでも・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
出典:青空文庫