・・・ 新宿へ迎えに出た民子の後について朝の混雑した郊外の表通りを家へ向って来る道々、とし子は二三歩あるいたかと思うと、すぐに当惑したようにして立止ってしまうので、民子が心配してとし子のところまで小戻りして、「どうしたの、気分がわるいんで・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・善悪の判断のあり来りの型だの、表通りはそうでも、裏の小路はこうついていて、そこの歩きかたはこうこうという要領や、人間はあまりの真実はかえって嫌う臆病さをもっていること、嘘も方便ということ、労少くして功多きを賢しとするしきたり、それらをみんな・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
・・・ 用のないのに出あるくものもないと見えて表通りには足音もしない。 植木台のはじにならんで居るのを二鉢ずつ三度運ぶ。 食盛りの鶏の雛がうっかり地面に置いた時食べた葉がちぎれていたいたしくついて居る。 厚い葉の表面が白くなって居・・・ 宮本百合子 「夜寒」
・・・彼女はロンドン表通りに於て他人である自分を感じる。すなわち、英国人の公平な勝負という標語もボート・レースやポローの競技場埒外では、アフガニスタンやパレスタインまで出ると怪しいもんだという懐疑を公然抱いているのだ。彼女は坐っている。 M氏・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫