・・・あと三個も、補助席二脚へ揉合って乗ると斉しく、肩を組む、頬を合わせる、耳を引張る、真赤な洲浜形に、鳥打帽を押合って騒いでいたから。 戒は顕われ、しつけは見えた。いまその一弾指のもとに、子供等は、ひっそりとして、エンジンの音立処に高く響く・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・それは、Kの友人達が、小田のような人間を補助するということはKの不道徳だと云って、Kを非難し始めたのであった。「小田のようなのは、つまり悪疾患者見たいなもので、それもある篤志な医師などに取っては多少の興味ある活物であるかも知れないが、吾々健・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・そこで、田島はその生活費の補助をするという事になり、いまでは、築地の寮でも、田島と青木さんとの仲は公認せられている。 けれども、田島は、青木さんの働いている日本橋のお店に顔を出す事はめったに無い。田島の如きあか抜けた好男子の出没は、やは・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・尼寺のおばさん達が、表面に口小言を言って、内心に驚歎しながら、折々送ってくれる補助金を加えても足らない。ウィイン市内で金貸業をしているものは多いが、一人としてポルジイと取引をしたことのないものはない。いざ金がいるとなると、ポルジイはどんな危・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 著者はこれにつづいて、天才を見付ける事の困難を論じ、また補助奨励と天才出現とは必ずしも並行しない事などを実例について論じている。そして一体天才の出現を無制限に望むのがいいか悪いかという根本問題に触れたところで、アインシュタインの独特な・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・「一般に剽窃について云々する場合に忘れてならないのは、感覚と情緒を有する限りすべての人は絶えず他人から補助を受けているという事である。人々はその出会うすべての人から教えられ、その途上に落ちているあらゆる物によって富まされる。最大なる人は・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・そうして、その不備の点を補うためにさらに補助的研究を遂行しなければならないようになることもしばしばあるのである。それからまた、頭の中で考えただけでは充分につじつまが合ったつもりでいた推論などが、歴然と目の前の文章となって客観されてみると存外・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・しかしそれでは肝心の事故の第一原因はわからないのでいろいろ調べているうちに、片方の補助翼を操縦する鋼索の張力を加減するためにつけてあるタンバックルと称するネジがある、それがもどるのを防ぐために通してある銅線が一か所切れてネジが抜けていること・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・当日となって行って見ると、そのわれわれの座席の前に補助椅子の観客がいっぱい並んで、その中には平気で帽子をかぶって見物している四十格好の無分別男がいたりしたので、自分の席からは舞台の右半がたいてい見えず、肝心の水谷八重子の月の顔ばせもしばしば・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 政治経済教育宗教学芸産業軍事その他ありとあらゆる方面にわたる現実の正確な知識を与え、一般の輿望に基づいて各当局の手の回らぬところを研究し補助して国家社会のあらゆる機関の円滑な融合を計るがために、こういう特別な一大組織を設けるという事は・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
出典:青空文庫