・・・ 四 ほんとに、わたしたちにとって親愛で創造的で身についた日本の文化は、どこにあるというのだろう。 思いめぐらすと、われわれがこれまで、文化について考える態度のなかには重大な欠点があった。それぞれの時代・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・そういう問題をはなすについても、大町さんの正直さ、人間として一番よく生きてゆこうとしている熱意が感じられ、親愛と信頼とを感じた。大町さんは、けっきょく、もっとも責任のある愛情のえらびかたをして生活条件とすれば困難のより多い故大町氏との結婚を・・・ 宮本百合子 「大町米子さんのこと」
・・・「親愛なる、忘れがたき生涯の伴侶」は失われた。最後までよいユーモアを失わず、みなの気を引立てるために冗談をいって笑いまでしたイエニーは、最後の意識が失われようとする時カールに向って云った。「カール、私の力は砕けました。」彼女の眼はいつもより・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・大先輩として貢献した人々の若き日の真摯な心情とを、医学者としてのベルツ、生物学者としてのモールスが記述していて、文学における小泉八雲、哲学のケーベル博士、美術のフェノロサの著述とともに、私たちにとって親愛な父祖たちの精神史の一部を照らす鏡を・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・私はこの偉い人の『科学の価値』という本の手ずれた表紙を常に親愛をもって眺めていたが、それはその手垢に対する主観的親愛に止っていたのだからこれを瞥見して苦笑して居ります。[自注1]スーさん――中野鈴子。 二月五日 〔市・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・法隆寺の壁画はそのゆたかさ、端厳さに人間らしい立派さがあふれていて、わたしたちの心のなかに親愛と尊敬をもって生きていた。あの壁画が感動的であるのは、画面の素晴らしさが、わたしたちに人間のもち得る美感の高さ、深さを、まざまざとした生命感で直感・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・ うちの小さい甥は、フクチャンに絶大の親愛を傾けている。けれどもフクチャンの絵本はどうにも買ってやろうという気がしない。一頁をいくつにも区切って、新聞の絵の一コマの狭さのものがそのまま、ただびっしり詰められてあるきりで、ゆったりと心持ち・・・ 宮本百合子 「“子供の本”について」
・・・を発表してから壺井さんが一人の婦人作家として持っている特色はすぐ一般に理解され、親愛のこころをもって迎えられて今日に至っている。今度新潮賞をうけることになったことや、それにつれてまた新しく『暦』の書評が書かれたりすることについて、壺井さんは・・・ 宮本百合子 「『暦』とその作者」
・・・日本の近代文学にフランス文学がどのように影響しまた風土化されたかということ迄を考えないひとでも明治以来、日本の文学愛好者の心情に、フランスの作品は常に一つの親愛な存在として感じられている。そこに素朴な空想が加えられているにしても、フランスと・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・吾人の胸には親愛義荘の権化たる「全き者」の影を抱き、その反影たる犠牲の念の下に力ーライルの言う「義務」をなし果たさん事を思う。かくて吾人は厳々乎として現実の社会を歩みたい。 吾人はさらに進んで一言付加したい事がある。日本の武士道は種々な・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫