・・・中でも最も敬服する点は、先生が、目立って巧みな言い回しとか、人を驚かせるような奇抜な表現とか、刺激の強い言葉とかを、決して使われないことである。どんなに烈しい内容を取り扱われる場合でも、いかにも淡々として、透明な感じを与える。わたくしはこの・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・という言い回しである。前後の連関から見て、他の作者なら単純に「……と言った」としてしまうところに、藤村はわざわざこの言い方を使っているのである。ところで、「言ってみせる」という言葉は、「言う」というのと同じ意味ではない。してみせるとか、着て・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
・・・という言い回しについて先生のいわれたことである。この言い回しがひどく目立って来たのは、ちょうど関東震災前後の時代からであった。先生は「この不思議な」言葉がどこから出て来たかをいろいろと考えてみたが、どうもこれは「なけらにゃならん」という地方・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫