・・・中肉で、脚のすらりと、小股のしまった、瓜ざね顔で、鼻筋の通った、目の大い、無口で、それで、ものいいのきっぱりした、少し言葉尻の上る、声に歯ぎれの嶮のある、しかし、気の優しい、私より四つ五つ年上で――ただうつくしいというより仇っぽい婦人だった・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ と一際念入りに答えたのでありまする。言葉尻も終らぬ中、縄も釘もはらはらと振りかかった、小宮山はあッとばかり。 ちょいと皆様に申上げまするが、ここでどうぞ貴方がたがあッと仰有った時の、手附、顔色に体の工合をお考えなすって下さいまし。・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ 京一は、何か悲しいものがこみ上げてきて言葉尻がはっきり云えなかった。「醤油屋へ行かずにどうするんどい? 遊びよったら食えんのじゃぞ!」 京一は、ついに、まかないの棒のことを云い出して、涙声になってしまった。むつかしい顔をして聞・・・ 黒島伝治 「まかないの棒」
・・・高岡只一が凡そ四時間に亙って陳述した間、裁判長はただ数度小さい言葉尻をとらえて、それで威厳でも示そうとするようにこけ脅しめいた文句を云いましたが、誰も問題にしていない。威厳は裁判長にはないのです。党員たちの態度の方に威厳があると感じました。・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
出典:青空文庫