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ふだん近くにいない人々にとって、岡本かの子さんの訃報はまことに突然であった。その朝新聞をひろげたら、かの子さんの見紛うことのない写真が目に入り、私はその刹那何かの事故で怪我でもされたかと感じた。そしたら、それは訃報であって・・・
宮本百合子
「作品の血脈」
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・・・ 孝子夫人の訃報を、私はごみっぽい板じきの室に立ったままで語る妹から、伝え聞いたのであった。 この十年の間に、私はまず母を、次いで父を喪った。いずれも只一夜の看病さえ出来ない状況の下で。そのことは一応悲しい訣れのかたちであるけれども・・・
宮本百合子
「白藤」