・・・お蓮にはその剣舞は勿論、詩吟も退屈なばかりだった。が、牧野は巻煙草へ火をつけながら、面白そうにそれを眺めていた。 剣舞の次は幻燈だった。高座に下した幕の上には、日清戦争の光景が、いろいろ映ったり消えたりした。大きな水柱を揚げながら、「定・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・丹波先生はやはり自分たちの級に英語を教えていたが、有名な運動好きで、兼ねて詩吟が上手だと云う所から、英語そのものは嫌っていた柔剣道の選手などと云う豪傑連の間にも、大分評判がよかったらしい。そこで先生がこう云うと、その豪傑連の一人がミットを弄・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・誤の感じは、単なるハイカラ的見地からでなく現代の世界が使用している武器の機械的な強力さや精緻さは子供だって知っているのだから、女の子がなまじそんな木剣を背負って行進したりするところには、ちかごろ流行の詩吟や黒紋付姿同様、何か国民が本気でそれ・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・黙ってきいていると、政策が語られずに、詩吟をする候補者まで出て来ます。これは世界にも余り類のないことでしょう。 私たちの毎日は、悠暢なものではありません。モラトリアムで、国民の経済が救われそうに話されましたが、一ヵ月たった今日では、万事・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・昨今の工場では労務課がいろいろ苦心して講習会をやるが、その一つで詩吟の会だの剣舞の会だのというのがある。この間或る婦人雑誌で、百貨店の婦人店員たちが仕舞の稽古をしている写真も見た。 詩吟というものは、ずっと昔も一部の人は好んだろうが、特・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
出典:青空文庫