・・・ 甥のRが死んでからもう二十余年になるので当時の想い出を話し合う相手もなくなってしまった訳である。従ってこの想い出には色々の思い違いがあることと思う。 寺田寅彦 「初旅」
・・・』僕たちは話し合うんだ。いままでどこをとんでいたのかもう今度で三度目だなんていう少し大きい方の人などが大威張でやって来ていろいろその辺のことなど云うんだ。『そら、あすこのとこがゲーキイ湾だよ。知ってるだろう。英国のサア、アーキバルド、ゲ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ 工場の文学研究会みたいに、みんなが家で小説をよんで来て、意見を話し合うというのではない。七つ八つの子供から七十近い爺さん婆さんまで、「そろそろまた本読みさ行くか」と、やって来る人々に向って、いつも一人の人間、つるの曲った眼鏡の・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・仕事をするのは独りぽっちの業であると知っても、時々心の底を打ち破って思うだけを話し合う友達が欲しい。仲間が欲しいというのが適当であろう。趣味、余技などというなまやさしいところを抜け、百姓ならば汗だくだくになって振った鍬を一休みし、額や頸でも・・・ 宮本百合子 「大切な芽」
・・・婦人の集会でこれまでただ一度もこんなに公然と、しかも新しい社会の建設にともなう婦人の将来を話し合う場所はなかった。 説明が終ってから、婦人の側からの発言が求められた。一座をみわたせば、そこに坐っているほどの女のひとたちは、みんな十分会合・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 私たちこの頃、また随分いろいろ話し合うようになったわ。昔左翼のひとでね、夫婦の間で決して翌日まで喧嘩をもちこさない約束で暮している人がいたって、その気持やっと今わかるようだわ」 好子にしろ、洋裁をやり始めたには、やはり勝たずば生きてか・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・文化会議は基本的には、こういう民主主義社会の文化の発展のために、今日私たちが現実に生きているまだ封建くさい社会の中でどんな可能性をもっているかということをみんなで話し合う会議だと思う。どういう可能性があり、どういう障碍物があり、どんな方法で・・・ 宮本百合子 「明瞭で誠実な情熱」
・・・手紙ではそういうこともどしどし書くし、また人からもそういう手紙を盛んに受け取ったであろうが、面と向かって話し合うときには、できるだけ淡泊に、感情をあらわに現わさずに、互いに相手の心持ちを察し合って黙々のうちに理解し合うことを望んでいたように・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫