・・・マリアは大急ぎで自分の車の設備を調べる。兵士の運転手がガソリンをつめている間に、マリアはいつもながらの小さい白カラーのついた黒い服の上に外套をはおり、ボルドーへも彼女とともに旅をした例の丸帽子をかぶり、すり切れた黄色い革の鞄を持ち、運転手と・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・ その本棚について調べると、或る特定の問題について何を読むべきかが、人にきかないでもわかる仕組みになっているのだ。 段々歩いて見ると、こういう本棚をこしらえたのはそこばかりではなかった。これも、ソヴェト五ヵ年計画の素晴らしい成果の一・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・縞背広は向い合う場所にかけ、「警視庁から来た者だ、君を調べる!」「――そうですか」 それきり何も云わず、ポケットから巻煙草を出して唇の先へ銜え、マッチをすり、火をつけると、一吹きフーと長く煙をはいた。その手がひどく震えて居る。煙・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・受取りを調べると五十二円二十五銭で、私は五十三円送ってお釣りをもらったと覚えています。二月分から九月分までのうつしで全部で六通です。大泉という人の公判調書二通が一番新しい分です。おや、ここに小さい字があって、九月三日に五十三円もらったと書い・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・瞬間つい気取るようにして、眼のなかには自分を調べる色がきらめくのである。ビルの昼の休みの洗面所の鏡の前に若い女事務員たちが並んで、顔をいじりながら喋る時の独得の調子で、盛んに喋っているのも面白い。 ベルリンで或る洒落た小物屋の店へ入って・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・志賀氏の作品と探偵小説とを同日に論ずべきでないが、しかし、日本のインテリゲンツィアの思想史、生きる態度、人間性の質量と方向の推移とをこの二つの作品によって調べることは可能である。 志賀氏の場合、范の理性は、法律上の物的証拠よりより深い人・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・小倉に来てから、始て纏まった一月間の費用を調べることが出来るのである。春を呼んで、米はどうなっているかと問うてみると、丁度米櫃が虚になって、跡は明日持って来るのだと云う。そこで石田は春を勝手へ下らせて、跡で米の量を割ってみた。陸軍で極めてい・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・浄めると云うのは悉しく調べるのである。この取調べの末に、いつでも一人や二人は極楽へさえやって貰うのである。 この緑色の車に、外の人達と一しょにツァウォツキイも載せられた。小刀を胸に衝き挿したままで載せられた。馬車はがたぴしと夜道を行く。・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・また一寸梶に起ったが、何一つ梶は栖方の云う事件の事実を見たわけではない。また調べる方法とてもない夢だ。彼のいう水交社への出入も栖方一人の夢かどうか、ふと梶はこのとき身を起す気持になった。「君という人は不思議な人だな。初めに君の来たときに・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ エルリングは、俯向いたままで長い螺釘を調べるように見ていたが、中音で云った。「冬は中々好うございます。」 己はその顔を見詰めて、首を振った。そして分疏のように、こう云った。「余計な事を聞くようだが、わたしは小説を書くものだから・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫