・・・いいえどかれません、じゃ法令の通りボックシングをやりましょうとなるだろう、勝つことも負けることもある、けれども僕は卑怯は嫌いだからねえ、もしすきをねらって遁げたりするものがあってもそんなやつを追いかけやしない、あとでヘルマン大佐につかまるよ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・けれども日本では狐けんというものもあって狐は猟師に負け猟師は旦那に負けるときまっている。ここでは熊は小十郎にやられ小十郎が旦那にやられる。旦那は町のみんなの中にいるからなかなか熊に食われない。けれどもこんないやなずるいやつらは世界がだんだん・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・ 負けるな。しっかりやれ。」「しっかりやれ。テジマア! 負けると食われるぞ。」こんなような大さわぎのあとで、こんどはひっそりとなりました。そのうちに椅子に座った若ばけものは眼が痛くなったらしく、とうとうまばたきを一つやりました。皿の上の・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・彼女がパリに、最後まで踏み止まる決心を固めたのは、生れながら困難に負けることの嫌いな彼女の気質で「逃げるという行為を好まなかった」ばかりではなかった。 キュリー夫人は冷静に、パリの置かれている当時の事情を観察して、たといパリが包囲され、・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・そして誰にともなく、余りいつも負けるのは支那の兵隊さんときめて遊んだりばっかりしているからなんだわ、きっと、と四つの子供心に植えこまれている偏見について説明した。 婦人画家 茶の間で、壁のところへ一枚の油絵をよ・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・そこで俺が勝つばかりでは詰らない、少しは負かしてみろというと、今度は機械的に負ける。つまり人間らしいむき出しの交渉がない。忠直卿は激しくて何でも人間の本当のものにふれてみたいのですから、今度は向うに理窟があるだろうというので怒ってみる。そし・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・ 生活のなかで試され、鍛えられつつ生活にその力を及ぼしてゆく人間の知性は、普通なものであると同時に各々その人々に属した動的なものでもあるから、その人としての知性の限度が現実の或る条件のうちで負けることもまれではない。例えば、すぐれた生き・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・アサが、誰にも負けるもんか、負けるものかと思っている、そういう前半の自然発生な女の勝気から、後半の、良人の古い半面にもめげず、自分の技術を高めようとすればあらゆる種類の仕事に従う現代の働く女が誰しも感じる働く女としての孤独感に到る心の過程、・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・従って「絶対に負けるのは左翼である。」「日本文化の一切の根底は無の単純化から咲き出したもので、地球上の凡ての文化が完成されればこのようになるものだという模型を作っているような社会形態が日本だと思う。」「つまり知性の到達出来る一種の限界まで行・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・勿論、彼は自分が国を愛していることは疑わなかった。負けることを望むなどとは考えることさえ出来ないことだった。勝ってもらいたかった。しかし、勝っている間は、こんなに勝ちつづけて良いものだろうかという愁いがあった。それが敗け色がつづいて襲って来・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫