・・・ 姫は、赤地錦の帯脇に、おなじ袋の緒をしめて、守刀と見参らせたは、あらず、一管の玉の笛を、すっとぬいて、丹花の唇、斜めに氷柱を含んで、涼しく、気高く、歌口を―― 木菟が、ぽう、と鳴く。 社の格子が颯と開くと、白兎が一羽、太鼓を、・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・、不動の縁日にといって内を出た時、沢山ある髪を結綿に結っていた、角絞りの鹿の子の切、浅葱と赤と二筋を花がけにしてこれが昼過ぎに出来たので、衣服は薄お納戸の棒縞糸織の袷、薄紫の裾廻し、唐繻子の襟を掛て、赤地に白菊の半襟、緋鹿の子の腰巻、朱鷺色・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ 花火船の艫にしゃがんでいた印半纏の老人は、そこに立ててあった、赤地に白く鍵屋と染め出した旗を抜いて、頭の上でぐるぐると大きく振り廻した。もうおしまいという合図らしい。 船首の技手は筒の掃除をする。若い親方はプログラムを畳む。見物は・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・馭者が二人、馬丁が二人、袖口と襟とを赤地にした揃いの白服に、赤い総のついた陣笠のようなものを冠っていた姿は、その頃東京では欧米の公使が威風堂々と堀端を乗り歩く馬車と同じようなので、わたくしの一家は俄にえらいものになったような心持がした。・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・北京からの日本語放送は、新中国の国旗について説明しました。赤地の左肩に輝く一つの黄色い大きい星に中心をむけて配置されている四つの小さい星は、労働者、農民、小市民、民族資本家をあらわす人民の統一戦線を語っているものであると。ラジオはその時、上・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
・・・ 叔父はいつもの通り頭に繃帯をし、杖を持って居、私は、十位までよく着て居た赤地に細い白線で市松が小さく小さく切ってある遠方から見ると真赤に外見えない様な着物を着て居たと覚えて居る。 田圃や畑の間を少し行くと思いがけず私共は両方が林に・・・ 宮本百合子 「追憶」
出典:青空文庫