・・・ 資本家は不景気の責任を労働者に転嫁して、首切りをやる。それを安全にやるために、われ/\の前衛を牢獄につないで置くのだ、――今になって見ると、お君にはそのことがよく分った。メリヤス工場でもその手をやっていたのだ。今夫が帰って来てくれたら・・・ 小林多喜二 「父帰る」
・・・ 私たちは、その原因をあれこれと指摘し、罪を社会に転嫁するような事も致しません。私たちは、この世紀の姿を、この世紀のままで素直に肯定したいのであります。みんな卑屈であります。みんな日和見主義であります。みんな「臆病な苦労」をしています。・・・ 太宰治 「自信の無さ」
・・・自分たちの助平の責任を、何もご存じない天の神さまに転嫁しようとたくらむのだから、神さまだって唖然とせざるを得まい。まことにふとい了見である。いくら神さまが寛大だからといって、これだけは御許容なさるまい。 寝てもさめても、れいの「性的煩悶・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・たのは、機械的、反映論風に唯物史観が俗流化されて一般に流布されているため、青年の多くのものは、人類史的規模の中で主体的に自己の人間性の積極性をつかまず、何しろこの世の中で、と、現代の情勢に万端の責任を転嫁して、卑俗な事大主義の生きかたをして・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・欧州戦乱が折から勃発した当時の英国の社会には彼女が教育上責任を転嫁し得る多くの欠陥のあったことも事実です。 夏中休暇に、友達の処に滞留している筈であったハフは、ターンハムプトンと云う村で放浪飲酒、暴行の廉を以て拘引されました。当時、間牒・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・その一つに、環境の影響に対する受動性と責任転嫁の傾向を挙げている。「希望館」を読み終って私の心に河合氏の論文中の数ヵ所が思い浮んだことは単なる偶然ではないと思う。山村は環境に対して受動的立場を取っている自身の態度を、客観的に批判することの出・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・お互同士のほかに、苦情の訴えどころもなければ、責任を転嫁する対手もないのだから。同様に、離婚の自由があるということは、従来の「家」での離婚沙汰よりはるかに深い人間的分離を意味することと、わたしたちは真面目に理解しなければならない。 家庭・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫