・・・のように不潔で獣のような農民が軽薄な侮べつ的態度で、はなをひっかけられている。その後のブルジョア文学は、一二の作品で農民を題材としていることがあっても、ほとんど大部分が主として、小ブルジョア層や、インテリゲンチャにチヤホヤして、農民をば、一・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・林長館といえるに宿りしが客あしらいも軽薄ならで、いと頼もしく思いたり。 三十日、清閑独り書を読む。 三十一日、微雨、いよいよ読書に妙なり。 九月一日、館主と共に近き海岸に到りて鰮魚を漁する態を観る。海浜に浜小屋というもの、東京の・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・ただ馬琴は左母二郎の軽薄※巧で宜しくない者であることを示して居るに反して、他の片々たる作者輩は左母二郎を、意気で野暮でなくって、物がわかった、芸のある、婦人に愛さるべき資格を有して居る、宜しいものとして描いて居るのです。彼の芝居で演じます『・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・そんな作品に打ち興じる兄を、軽薄だとさえ思った。 そうして私はその時、一冊の同人雑誌の片隅から井伏さんの作品を発見して、坐っておられないくらいに興奮し、「こんなのが、いいんです」と言って、兄に読ませたが、兄は浮かぬ顔をして、何だかぼやけ・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・と私は、頗る軽薄な感想を口走った。「そのお嫁さんはあなたに惚れてやしませんか?」 名誉職は笑わずに首をかしげた。それから、まじめにこう答えた。「そんな事はありません。」とはっきり否定し、そうして、いよいよまじめに小さい溜息さえも・・・ 太宰治 「嘘」
・・・自分では、もっとも、おいしい奉仕のつもりでいるのだが、人はそれに気づかず、太宰という作家も、このごろは軽薄である、面白さだけで読者を釣る、すこぶる安易、と私をさげすむ。 人間が、人間に奉仕するというのは、悪い事であろうか。もったいぶって・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・フランス人の画を見てすぐに要領を修得したような軽薄な絵を見るよりは数倍気持がいいと思う。 未来派の絵というと、ギタアが出て来るのは、あれはどういう理由によるのだろうか。他にも同等もしくは以上に適当な題材はいくらでもあるだろうが。・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
・・・「珊瑚の枝は海の底、薬を飲んで毒を吐く軽薄の児」と言いかけて吾に帰りたる髯が「それそれ。合奏より夢の続きが肝心じゃ。――画から抜けだした女の顔は……」とばかりで口ごもる。「描けども成らず、描けども成らず」と丸き男は調子をとりて軽く銀・・・ 夏目漱石 「一夜」
・・・虚偽でもある。軽薄でもある。自分はまだ煙草を喫っても碌に味さえ分らない子供の癖に、煙草を喫ってさも旨そうな風をしたら生意気でしょう。それをあえてしなければ立ち行かない日本人はずいぶん悲酸な国民と云わなければならない。開化の名は下せないかも知・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・最後の一句は大に振ったもので、定めてモーパッサン氏の大得意なところと思われます。軽薄な巴里の社会の真相はさもこうあるだろう穿ち得て妙だと手を拍ちたくなるかも知れません。そこがこの作の理想のあるところで、そこがこの作の不愉快なところであります・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫