・・・事、亜麻は貸付地積の五分の一以上作ってはならぬ事、博奕をしてはならぬ事、隣保相助けねばならぬ事、豊作にも小作料は割増しをせぬ代りどんな凶作でも割引は禁ずる事、場主に直訴がましい事をしてはならぬ事、掠奪農業をしてはならぬ事、それから云々、それ・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ときどきの消息に、帰国ののちは山中に閑居するとか、朝鮮で農業をやろうとか、そういうところをみれば、君に妻子を忘れるほどのある熱心があるとはみえない。 こういうと君はまたきっと、「いやしくも男子たるものがそう妻子に恋々としていられるか」と・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・旧幕の末路にあたって経済上、農業改良上について非常の功労のあった人であります。それでわれわれもそういう人の生涯、二宮金次郎先生のような人の生涯を見ますときに、「もしあの人にもアアいうことができたならば私にもできないことはない」という考えを起・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・しかし植林成功後のかの地の農業は一変しました。夏期の降霜はまったく止みました。今や小麦なり、砂糖大根なり、北欧産の穀類または野菜にして、成熟せざるものなきにいたりました。ユトランドは大樅の林の繁茂のゆえをもって良き田園と化しました。木材を与・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ ――「成程今までの我々の農民文学は、日本農業の特殊性をさながらの姿で写しとった。それは、農林省の『本邦農業要覧』にあらわれた数字よりも、もっと正確に日本農民の生活を描きだしていた。けれども、それだけに止っていた。」とナップ三月号で池田・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・この子は十八の歳に中学を辞して、私の郷里の山地のほうで農業の見習いを始めていた。これは私の勧めによることだが、太郎もすっかりその気になって、長いしたくに取りかかった。ラケットを鍬に代えてからの太郎は、学校時代よりもずっと元気づいて来て、翌年・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・その一は軍職を罷めて、耕作地の経営に長じているという噂のあるおじさんのいる、スラヴ領の荘園に行って、農業を研究するのである。ポルジイはこれを承って、乱暴にも、「それでは肥料車の積載の修行をするのですな」と云った。その二は世界を一周して来いと・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・しかし人口の増殖とともに獲物が割合に乏しくなり、その事が農業の発達に反映したということも可能である。それが仏教の渡来ということもあいまってわが国におけるこれらのゲームの絶滅をかろうじて阻止することができたのかもしれない。 水産生物の種類・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・そのような記録は農業その他に参考になる。 たとえばある庭のある桜の開花する日を調べてみると、もちろん特別な年もあるが大概はある四五日ぐらいの範囲内にあるのが通例である。これはなんでもないようでずいぶん不思議な事である。開花当時の気温を調・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・先ず農業の方面ではつとに農芸物理学という学科が出来ているくらいであるが、今後まだどれだけ発展するか予期し難いように見える。自分の知っている狭い範囲だけでも面白い問題が沢山ある。例えば穀物の研究でも少し詳細にするとすれば、米粒の堅さとか、比重・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
出典:青空文庫