・・・読者の要求に追随するという表現にしろ、作家としてはわが身にかかわることなのであるから、つまりは、自分の内の何かに追随しているということと全く等しい。 百円札を出して、これだけ本を下さいと云ったという若い職工さんの俤も、人生的な又文化の情・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・権力というものに対する事大主義的な追随や、機械的な政治の文学に対する優位の承認を結果するであろうという危険は、誰の目にも明かである。プロレタリア文学が、方針に於て或る時期機械的な政治の優位を認めたと云って、文学を死滅さすものだと非難した人を・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・自分が日本の作家であればこそ、その日本の非人間的な権力の行動に追随してはならないということについて、新しく自分をはげまさねばならなかった。そのようなモティーフに立ってモスクワを背景とするこの短篇がかかれた。「広場」の題材は、今執筆中の「道標・・・ 宮本百合子 「作者のことば(『現代日本文学選集』第八巻)」
・・・の創作的実験であったが、その作品の世界は書生という姿に於て踏襲されている昔ながらの遊蕩の世界であり、その遊蕩というものに対する作者の態度も、戯作者的現実追随の域を脱していなかった。 こういう時代に、二葉亭四迷がロシア文学の教養から、人生・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・モチーフを整理の必要として感じているとき、作家は、「在るものへの追随によって世界像を求める傾向へ」と発展せざるを得ず、今日の生活のなかで、それが文学にどのような結果をもたらすかということは、察するに余りある。所謂純文学が或る面では、案外に文・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ 日本のきょうの文学、しかも西欧的なものを意欲していると云われる人々の文学にあるこの奇怪な顛倒と時代錯誤への屈従、追随こそ、批評家を無力にし、骨抜きにしている。別の云いかたをすると、戦後の批評家の多くは、その人自身、国内亡命をしていた人・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・の発展的解消、単一なソヴェト作家同盟組織委員会の結成、および創作方法における社会主義的リアリズムの問題の提起は、一部の人々によって誤解されているように、インテリゲンチアへの追随でもなく、抽象化され超階級化された技術偏重論でもない。ましてや階・・・ 宮本百合子 「社会主義リアリズムの問題について」
・・・この気分は、例えば新感覚派や新興芸術派の無理論性となって現れたし、作家は何でも書きさえすればよいという当時のリアリズムの解釈法の底にも流れ入って、社会的な心理の傾向と綯い合され文学の現実追随への一条件となっているのであるが、今日顧みて興味あ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・自身がいわばすでに功成り名をとげた人々であるそれら大多数の婦人たちは、政治的に、すなわち客観的に現実的に社会現象を判断し対処してゆく能力は欠いていて、事大的な追随を政治的な態度と思いあやまって、結果としてはかえって、時局を漫画化する登場人物・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ソヴェトの美術・音楽の上にあるフランス美術・音楽の影響は顕著で、ショスタコヴィッチのような現代の才能でさえ、初期には混乱したフランスの近代音楽に追随していた。シーモノフが日本へ来たとき、文学者の座談会で、ソヴェトでよまれている外国作家はどう・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫