・・・脚本なら「退場」と括弧の中に書くところである。最も普通の俳優はこんな時「それではあんまり不自然で引っ込みにくいから、相手になんとか言わせてくれ」と、作者に頼むのが例になっている。 ――――――――――――――――――――・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・別々に退場(銅鑼右隊登場、総て始めのごとし。可成疲れたり。曹長「もう四時なのにどうしたのだろう、バナナン大将はまだ来ていないもう四時なのにどうしたのだろう。バナナン大将は帰らない。」左隊登・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ペンキ屋徒弟退場。「申し。」爾薩待(居座いを直し身繕「はあ。」農民一(登場 枯れた陸稲「稲の伯楽づのぁ、こっちだべすか。」爾薩待「はあ、そうです。」農民一「陸稲のごとでもわがるべすか。」爾薩待「あ・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・ 一九四五年の無条件降伏によって、一応ファシズム権力は退場したように見えた。けれども日本の社会の実質がどれほどファシズムの無思想性と反歴史性に毒されているかという証拠は、民主主義運動と同時に、一部の人々が精力的に小林多喜二の生涯と文学に・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・ 間宮茂輔、中本たか子等の作品が生産文学という名称を持ったことも、究極に於てはこの農民文学がそうであった通り文学からの生ける人間の退場が根本の理由をなしている。かつて横光利一が第四人称の私を発明した時既に生産文学に於ける人間と物との置き・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・古い、惨虐な権力を退場させるものは、即ち自分たちインテリゲンツィアをふくむ全人民の進出である、ということが十分わかっている上で、古いものの否認がされたのではなかったのであった。 このことは一九三三年以来、日本にはプロレタリア文学の運動が・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・必ず結着ある退場をするように描かれなければならないし、又スーと立ち消えるような重要性のない人物がドタドタ作品の中に出て来ることはよくない、と。 これは、あらゆる時代に小説を書く上での意味ある注意として役立つものであろう。 先生は、そ・・・ 宮本百合子 「坪内先生について」
・・・意見を表示する拍手を一切してはいけないということや、取締り上必要と認めたときには退場させるということなどが、細かい字で印刷されているのである。ほかにすることもないから皆がすなおに出してよみかえした。 やがて一時半となり、今にも、と待つが・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫