・・・といったのは、よく這般のいわゆる文明を冷評しつくして、ほとんど余地を残さぬ。 予は今ここに文明の意義と特質を論議せむとする者ではないが、もし叙上のごとき状態をもって真の文明と称するものとすれば、すべての人の誇りとするその「文明」なるもの・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・の片足の、霜に凍て附きて堅くなりたること、路傍にすくすくと立ち併べる枯れ柳の、一陣の北風に颯と音していっせいに南に靡くこと、はるかあなたにぬっくと立てる電燈局の煙筒より一縷の煙の立ち騰ること等、およそ這般のささいなる事がらといえども一つとし・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・おとよも同じように身顫いが出る。這般の消息は解し得る人の推諒に任せる。「寒いことねい」「待ったでしょう」 おとよはそっと枝折戸に鍵をさし、物の陰を縫うてその恋人を用意の位置に誘うた。 おとよは省作に別れてちょうど三月になる。・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・成仏延引し父が奥殿深く秘めおいたる虎の子をぽつりぽつり背負って出て皆この真葛原下這いありくのら猫の児へ割歩を打ち大方出来たらしい噂の土地に立ったを小春お夏が早々と聞き込み不断は若女形で行く不破名古屋も這般のことたる国家問題に属すと異議なく連・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
出典:青空文庫