・・・ 私は通訳をしてくれる人もその席には持っていないのだから途方に暮れ、到頭立って、私はロシア語はまだ話せない、モスクへ三月前に来たばっかりです、私のいうこと、分りますか? そういう調子で十言か二十言話した。出来ない言葉を対手に分らせようと・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
・・・英語の通訳、ドイツ語の通訳が玄関を飛び交うサヴォイやグランド・ホテルは例外である。そこは、ソヴェトのただ狭い客間である。一九二八年代、どこのホテルの廊下ででも給仕男が大きな盆に茶や食物やをのっけ、汗だくで運んで行く恰好を見ることが出来た。む・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・片山潜がアムステルダムの大会で演説をしたとき、ドイツ語の通訳はクララ・ツェトキンがやり、フランス語へはローザが翻訳して大衆に伝えたという話をきいたことがあった。 片山潜は、ローザの熱情あふれた才能につよく心をひかれた様子で、うむ、あれは・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・キムという、日本語の達者な朝鮮人の東洋語学校の教授が、通訳だ。話すものはテーブルに向って演壇の上で椅子にかけて話す。わきで、大きな体のピリニャークが、煙草をふかしながら、彼の作文「日本の印象記」の中から朗読すべき部分を選んでいる。 開会・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
・・・のみであり、さすが古強者のシュール・レアリスト、ツァラアも「通訳を聞くとただ頷いて黙っていただけであった。」と云うのは、実に「笑わば笑え。正真正銘の悲劇喜劇」であると云うより外はない。 作家というものは、錯綜した社会関係の間にあって、種・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・菅氏は通訳として、その限度の中での証人として、証人台に立ったのです。菅氏は、ロシア語の実際として、要請には、プロシェーニェという別の言葉があり、よりつよい意味での要請――ことわりにくいほど命令のニュアンスがふくまれた要請の場合には、はっきり・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
・・・支那語の通訳をしていた男である。「度胸だね」と今一人の客が合槌を打った。「鞍山站まで酒を運んだちゃん車の主を縛り上げて、道で拾った針金を懐に捩じ込んで、軍用電信を切った嫌疑者にして、正直な憲兵を騙して引き渡してしまうなんと云う為組は、外・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・「こっちへ這入らせて下さい」とロダンはいった。椅子をも指さないのは、その暇がないからばかりではない。「通訳をする人が一しょに来ていますが。」機嫌を伺うように云うのである。「それは誰ですか。フランス人ですか。」「いいえ。日本人・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫