・・・秀麿だって、ヘッケルのアントロポゲニイに連署して、それを自分の告白にしても好いとは思っていない。しかしお父う様のこの詞の奥には、こっちの思想と相容れない何物かが潜んでいるらしい。まさかお父う様だって、草昧の世に一国民の造った神話を、そのまま・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 酒井忠実は月番老中大久保加賀守忠真と三奉行とに届済の上で、二月二十六日附を以て、宇平、りよ、九郎右衛門の三人に宛てた、大目附連署の証文を渡して、敵討を許した。「早々本意を達し可立帰、若又敵人死候はば、慥なる証拠を以可申立」と云う沙・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・佐野さんの手で書いて連署した遺書が床の間に置いてあって、その上に佐野さんの銀時計が文鎮にしてあった。お蝶の名だけはお蝶が自筆で書いている。文面の概略はこうである。「今年の暮に機屋一家は破産しそうである。それはお蝶が親の詞に背いた為めである。・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫